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1.烏合の衆
正門にかかげられた旗は、長年風雨にさらされて色褪せた織地が白雲のようだった。中央には、こちらも淡い青色となった五羽の小鳥が刺繍されている。旗が風にたなびくと、小鳥たちは晴れ渡る空に飛び立ってゆくかと思えた。
旗の下には、青年が立っていた。年のころは二十五か六。金糸の髪が朝日を受けて輝き、目もとには深い青をたたえている。濃紺の騎士服を身に着け、腰に剣を提げた立ち姿は、まるで肖像画から抜け出してきたようだった。
「青鳥騎士団へようこそ!」
オーレン・エイガーは言った。輝くような笑顔が、ともすれば引きつりそうになるのを必死でこらえていた。
「私は団長のエイガー。こちらは副団長のロアだ。君たちの入団を歓迎する。どうか、ここを第二の家だと思って……」
挨拶は、大きなあくびによって遮られた。白髪の副団長がすかさず「こらっ」と叱責する。だがあくびの張本人は、目をしょぼしょぼさせて「すんません……」と言うだけだった。脂じみた顔とくたびれた服装から、男は酒場から直行してきたように見えた。
『新規入団者』としてオーレンの前に集まった男たちのほぼ全員が、似たり寄ったりの状態だった。すねた顔つきのニキビ面の若者に、焦点の合わない目をした赤ら顔の中年男。中に一人だけ、小ぎれいな身なりの少年が混ざっている。ガラの悪い男たちの間で居心地悪そうにしている彼を見て、オーレンは大変申し訳ない気持ちになった。
「……では、まずは君たちの宿舎を案内しよう。ロア」
「はっ」
ロア副団長はさっと前に出て、みすぼらしい集団をあれこれせっついた。なんとか一列になった彼らの先頭に立つと、オーレンに敬礼してきびきび歩き出す。その後に、囚人のような足取りの男たちが続いた。彼らが完全に背を向けたところで、オーレンはようやくこわばった笑みをほどくことができた。入団式のたびに、表情筋が凝ってしまう。
そのまま騎士の卵たちを見送っていると、反対側から歩いてくる人影があった。小柄ながら颯爽とした騎士姿のその人は、亜麻色の髪を三つ編みにして頭に巻きつけている。すれ違った男たちは、口をあんぐりあけて振り返った。
「女だ!」
無作法な声を無視し、女性騎士はオーレンの前までやってくると一礼した。
「団長、よろしいでしょうか」
「ハイト。どうかしたか?」
背後では、ロアが男たちを叱りつけている。十分に遠い距離ではあったものの、ハイトは声をひそめた。
「先ほどから、草原狼騎士団の使者が来られています。団長にお会いしたいと」
「草原狼?」
首をかしげるオーレンに、ハイトは言葉を続けた。
「何か、頼みたいことがあるようです。それも、内密に」
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