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主の誕生日プレゼント
***
昨年、アンドレア様の誕生日に強請られたものは、私が愛用している懐中時計だった。その前の年は万年筆という具合で、身の回り品をアンドレア様はなぜかほしがられた。
「伯爵家次期当主になる貴方様が、わざわざ使うようなものではございません」
そう言って窘めたのに、まったく聞く耳を持たず、「俺の誕生日なのに、おまえはほしいものをプレゼントする気持ちはないのか?」と言い放ち、苛立ったご様子で、私の手から身の回り品を奪取した。
毎年おこなわれるパーティー後に、強引に奪われたプレゼントを思い出しつつ、今年の誕生日パーティーを無事につとめた主の横顔を眺める。
アンドレア様は疲れた面持ちで、昨年プレゼントした安物の懐中時計を眺めながら、大きなため息をついた。
「アンドレア様、お疲れでございますよね? ぐっすりお休みいただけるように、カモミールティーをご用意いたします」
時刻はすでに、午前零時を回っている。昨年以上に来賓の多かった誕生日パーティーは、準備を含め大変だった。たまった疲れを取るべく、少しでも早く就寝していただくために、カモミールティーを手早く用意する。
「なぁカール、今年の誕生日プレゼントなんだが」
「はい、どのような品をご所望でしょうか?」
差し上げることのできる身の回り品を思い浮かべながら、ティーポットから紅茶を丁寧に注ぐ。
注ぎ終える前に、軽く肩を叩かれた。手を止めて、背後にいるアンドレア様に視線を飛ばす。自分よりも背の高い彼は、熱を感じさせるまなざしで、私の顔に視線を縫い付けた。
「アンドレア様?」
ただならぬ気配をひしひしと感じて、彼の名を口にしたら、アンドレア様は私が持っていたティーポットを手から外し、強引に振り向かせると、いきなり強く抱きしめる。
「今年の誕生日プレゼントはカール、おまえがほしい」
「は?」
耳に聞こえたセリフは、信じられないものだった。驚きのあまり固まる私に、アンドレア様は震える口調で告げる。
「おまえがずっと好きだった。10年前に、はじめて逢ったときから」
私を抱きしめる両腕に、骨が軋んでしまうのではないかというくらいの力が込められた。まるで想いの強さを示すようなそれに抗えず、嬉しさを噛みしめる。
「子供の頃は俺を意識してほしくて、わざと困らせることばかりしたんだ。いたずらばかりしてしまった俺を、どうか許してほしい」
好きな人に想われていることに、ただただ酔いしれたかったが、現実はそう甘くない。だって彼は、伯爵家次期当主のお立場なのだから。
上半身を抱きしめる腕の力に反発すべく、意を決してアンドレア様の胸を強く押して、無理やり距離をあけた。
「アンドレア様に、私をプレゼントすることは叶いません」
「カール?」
注がれる視線を感じないように俯き、言いたくないセリフを告げる。
「私のことはさっさと諦めて、結婚相手をお決めください。伯爵様もそれを望んでいらっしゃいます」
思ってもいないことを喋るたびに、彼を想う心から勢いよく血が吹き出した。滴る血が胸の中で見るまに増えていき、彼を想う心を覆い隠す。
「カール、俺が好きなクセに、どうしてそんなことが言えるんだ」
「好きではございません。勘違いも甚だしい……」
肩を竦めて、へらっと笑ってみせた。こんなことで自分の気持ちを誤魔化せるのなら、いくらでも嘘をついてやる姿勢を貫く。
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