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ー1ー  雑居ビルの林立する路地裏を、3人男が駆けた。彼らの手には、拳銃やサバイバルナイフがあり、酷く物々しい。 「チッ! あちこちから無限に湧いて出やがるな!」 「あの中に逃げ込むぞマイク! 新庄もだ、急げ!」  3人は無作法にも扉を開けると、見知らぬ倉庫へとなだれ込んだ。そしてすかさず、棚を倒して扉を塞ぐ。  ありあわせのバリケード。それでも効果的だ。あちら側から、扉をこじ開けようとする音が響いたものの、やがて静かになった。 「これで安心だ。ゾンビ連中も諦めただろう」 「そのようだぜ。だったらこれで、ゆっくり話ができるよなぁ? 研究者さんよぉ!?」  新庄は、マイクによって壁に強く押さえつけられた。肘で腹を圧迫されているので、息が苦しい。しかしそれよりも、頬に突きつけられた銃口のほうが問題だった。 「テメェはあの、製薬会社タクラムワークスの研究員だろ! ゾンビウィルスの事を洗いざらい話しやがれ!」 「私は、大したことを聞かされてない。研究員と言っても末端だ。こんな大それた研究を進めていたなどと、知りようもなかった」 「適当な事ブッこいてんじゃねぇ! そのお口で鉛玉を味わってみるかコラァ!」 「よせマイク。少し冷静になれ」  取りなしたのは、白髪交じりの中年男ロレンス。こちらはまだ、理知的に話し合えそうである。少なくともマイクという、髪を赤く染めちらかしたタンクトップ姿のチンピラよりは。 「新庄。君はタクラムワークスの研究所について、どの程度知っているんだ?」 「ほとんど知らない。私の勤務地は、研究所と同じ敷地だが建物が違う。権限の理由から、入った経験はほとんどない」 「オレ達は、別に復讐なんて考えていない。ただ、このゾンビ騒動を一刻も早く終わらせ、安全を確保したいだけだ」 「具体的には?」 「ゾンビにならずに済むワクチンか。あるいは対抗できる武器が欲しい」 「そんな都合の良い物があるとは考えにくい」 「心当たりすら無いのか?」 「さっきも言ったが、私は末端の平社員だ。大した情報は知らされていない――」 「あぁ分かったよクソ野郎! 役に立たねぇなら、この場で頭をブチ抜いてやるよ!」 「止めないかマイク! オレ達2人でどうにかなる局面じゃない。故国へ帰るには、彼の協力も必要だろう」 「チッ。理屈じゃそうだがよ。何か気に食わねぇんだ」  マイクは、積み上がるダンボールを蹴り飛ばしては、不満を露わにした。  一方でロレンスは冷静なままだ。新庄の瞳を正面から見据えている。だが、こうして視線が重なると、否が応にも気付かされてしまう。  ロレンスの瞳に親しみの色はない。代わりに何か、冷え切った物があると。   「新庄。このままでは我々皆が、飢えるか食われるかの2択だ。そうなりたくはない。何か妙案は無いか?」 「だったら会社まで行くべきだ。やりたい事がある」 「場所は?」 「安芸宇和島駅から、徒歩で15分程度」 「ここから歩いて小一時間の距離だな。マイク、行けるか?」 「どうせここに居ても始まらねぇだろ。やってやるよ」 「分かった。では新庄、道中の安全は極力確保する。途中で食われてくれるなよ」  こうして3人は倉庫を後にした。  辺りは地獄そのものだ。行く先々でゾンビがたむろし、腐肉と悪臭を撒き散らす。うめき声も幾重に重なり、それも耳障りだった。  進路は迂回を織り交ぜることで、戦闘を避けた。それでも時折、強行突破も強いられた。マイクが銃弾を放ち、ロレンスが蹴倒すなどして血路を開いた。  一行は消耗させられたものの、大きな被害もなく辿り着いた。この窮地を覆すヒントの眠る、因縁の地へと。
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