Prologue

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Prologue

「みんなには秘密にしてくれる?」と、あなたが頬を朱色に染めながら念を押したのは、あの贈りものみたいな季節――三月下旬の午前講習後、幼なじみのかれと気に入りの公園に寄り道した日のこと。ありふれた特別なひととき。  視界いっぱいに広がるネモフィラの花畑のベンチ、カフェテラスを併設した自然文化園で触れあった山羊の優しい鳴き声、緋色のコントラストが映えるノムラモミジの並木道、こどもの頃みたいにシャボン玉でふざけ合った中央広場のオランダ型風車群。  あなたたちの価値観とか好みは正反対で、たまに喧嘩のになるけど。それ以上にこうして隙間を埋め合える、似たような感性で繋がることができるから。  いつも、ちゃんとずっと。  なんとなく通じ合えて、分かち合えているこの空間がひたすら大切で、かれもそうだって実感できるから。あなたのこころに搭載されたレーダーチャートの以心伝心度は、ためらいなくオーバーライドをくり返す。おたがいの些細なしぐさや声音が織りまざり、もっと贅沢に、ずっと大切な響き方にしてくれる。  あなたは門限なんて消えちゃえばいいと心底願うけど、時間を意識することで「バイバイ、また明日」の影が忍びいるのを、黄金色のグラデーションにありありと伝えられてしまう。  あなたの勢いに気圧されるように、かれはうろたえて言葉に詰まる。いつも余裕たっぷりで自信にあふれているかれの、戸惑った顔。それは思わぬ収穫。生涯のなかで三毛猫のオスにばったり出会(でくわ)す確率のほうがきっと高いはず。さすがに言いすぎかしら?……ううん、でも滅多にないよ。  けれど、そんな表情も流れ星ほどのつかの間、謙虚なふくみ笑いにふっと移り変わって。 「わかった。秘密がよかったら、秘密にしよう」  ビードロ細工のように清澄とした声。約束を誓うかれのこころは、ふたりしか知りえない過去できらめいていた。思い出のプラネタリウム。  クールで取っつきにくそうな印象を抱かれやすいあなたが、ほんとうは人一倍みんなと仲よくなりたくて、なんどもかれに相談していること。  おたがいに、ふたりのときだけの呼び名があること。  誕生日がおなじ閏日で、四年にいちどの二十九日の夜はどちらかのおうちでお泊りするのが慣例になってること。  スクールバッグの内ポケットにおそろいのキーホルダーを付けていること…… (もうたくさんあって数えきれないよ。ねえ、そっちはどのくらい覚えてる? きいたら教えてくれるかな――)
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