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いつだって、共有の提案をするのはあなたの役割。それらのほとんどが、こんな黄昏どき、この公園で交わされたものばかりで。ずっとかわらないあなたがおかしくて、愛おしくて、かれの口もとは緩んでしまう。秘密のワードローブ。
すこしでも油断したら舞いあがっちゃいそうなのは、ぼくだけ?――かれは果てしない充足感につつまれていた。夢の領域なんて、とっくに超えて。“これまで交わした秘密を春の星座に仕立てあげるなら、たった今の秘密は、後生一生で一縷一刹那の唯一無二な真珠星だよ”って。
「ねえ。ほんとに、ちゃんとわかってるっ? 新しいクラスで仲良くなった子とかにも、言っちゃだめだからね……?」
あなたはじっと、見咎めるような上目遣い。華奢な首まで朱く染めるあなたの体温は、もしかしたら遠くかなたで眩くしぼんだお日さまより熱くなってるかも。
あなたの潤んだ瞳のせつなさに触れ、かれは目を泳がしそうになり、照れかくしに唇をきつく結んで。
「わかってる」
思い切って一歩、踏みだす。かれはあなたの肩に手を伸ばすけど、その手に抱きよせられるのを待ちきれず、あなたはかれの胸にとびこんだ。
甘く柔らかいムスクの匂いがふんわり舞う。時計の針みたいにかさなる、ふぞろいの影。
「ちゃんと、わかってるから」
かれのからだにもたれながら、あなたは曖昧に頷く。鏡のように見つめ合う視線の内側を、行き交うことばってほんのひと握り。とはいえ十数年来の幼なじみ特有の以心伝心があるみたい。些細なしぐさから千の意思を汲みとれる、世界にひとつだけの仕様。
そんなあなた達ですら思いもしなかった――かれはあなたの睫毛の長さを、あなたはかれの耳に産毛が生えているのを、そしてふたりとも、そばにいるだけじゃ辿りつけない親密な温もりがあるということを。
(ふしぎな感じ。きみを好きって気づいたのは、三年まえのあの日だけど……)あなたはしみじみ思う。(この感情は、あたしが生まれたときから、ずっとあたしに見つけてもらうのを待っていたみたい)
おたがいの息がからまる距離。見つめ合うことで、あなた達の鼓動はゆっくりそろいだす。ふたりでひとつになった影を、オランダ型風車の羽根が規則正しく覆いかくすたびに――
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