71人が本棚に入れています
本棚に追加
届いたメール
数学の授業中、制服のポケットでスマホが振動した。
やはりどうあっても事実は曲げられないんだ。これはサプライズでした、なんて連絡じゃない。この振動は、私の心臓に揺さぶりをかけるものだ。
彼が亡くなった。
彼の家族と連絡を取るためだけに作ったメールアドレス。私のスマホはすべての通知をオフにして、彼の母親が送ってくるメールだけ振動するように設定してある。
先生に隠れて机の下でスマホの通知画面を見ると、『今夜、通夜です』というタイトルが唸るように浮かび上がっていた。
ギッと奥歯を噛み、専用アプリを立ち上げる。そこには明朝体の文字で、あくまで事務的に、決して私を責めるではなく、こう書いてあった。
『一瀬杏奈様
授業中と思われますが、失礼致します。
本日午後七時より、当家の次男 月原誠人の通夜を行います。
杏奈様におかれましては、参加しづらいお気持ちもあるでしょうが、誠人のためにもご参列くださいませ。
尚、当方は杏奈様に何ら怨恨の念を持ってはおりません。
誠人が落命した点についても、杏奈様を面責するつもりはございません。
ただ当事者でありますので、せめて息子の冥福を祈って頂きたいのです。
無論、参加して頂かずとも誹りはしません。
本日は当方も慌ただしく、メールの返信は致しかねますのでご容赦ください。
報告まで。 月原美子』
メールの文字に、二度会わせてもらった美子さんの顔を重ねて映す。
彼女はいずれの日にも涙を堪えていた。私の前では泣かない。絶対に、何があっても泣くものか、という意志を感じた。
今日、私が彼のお通夜に行くことで、美子さんが流したい涙を流せないのではないか。そう思うけど、強迫観念よりも強い力が私をお通夜へ連れて行くだろう。
誠人くんには心をこめて手を合わせなければ、私はこの想いを断ち切ることができない。
最初のコメントを投稿しよう!