届いたメール

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届いたメール

数学の授業中、制服のポケットでスマホが振動した。 やはりどうあっても事実は曲げられないんだ。これはサプライズでした、なんて連絡じゃない。この振動は、私の心臓に揺さぶりをかけるものだ。 彼が亡くなった。 彼の家族と連絡を取るためだけに作ったメールアドレス。私のスマホはすべての通知をオフにして、彼の母親が送ってくるメールだけ振動するように設定してある。 先生に隠れて机の下でスマホの通知画面を見ると、『今夜、通夜です』というタイトルが唸るように浮かび上がっていた。 ギッと奥歯を噛み、専用アプリを立ち上げる。そこには明朝体の文字で、あくまで事務的に、決して私を責めるではなく、こう書いてあった。 『(いち)()(あん)()様  授業中と思われますが、失礼致します。  本日午後七時より、当家の次男 (つき)(はら)(まこ)()の通夜を行います。  杏奈様におかれましては、参加しづらいお気持ちもあるでしょうが、誠人のためにもご参列くださいませ。  尚、当方は杏奈様に何ら怨恨の念を持ってはおりません。  誠人が落命した点についても、杏奈様を面責するつもりはございません。  ただ当事者でありますので、せめて息子の冥福を祈って頂きたいのです。  無論、参加して頂かずとも(そし)りはしません。  本日は当方も慌ただしく、メールの返信は致しかねますのでご容赦ください。  報告まで。    月原()()』 メールの文字に、二度会わせてもらった美子さんの顔を重ねて映す。 彼女はいずれの日にも涙を(こら)えていた。私の前では泣かない。絶対に、何があっても泣くものか、という意志を感じた。 今日、私が彼のお通夜に行くことで、美子さんが流したい涙を流せないのではないか。そう思うけど、強迫観念よりも強い力が私をお通夜へ連れて行くだろう。 誠人くんには心をこめて手を合わせなければ、私はこの想いを断ち切ることができない。
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