死神

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人と会うのは嫌いなのに お金の為と割り切って 鳴り止まぬ電話に追われ 処理した書類の間違いの 被害がなるべく小さいように 取り繕う技術だけが 勤続の証のように思えてきて 明日こそはと 階下の自分を再び想像する 得意先の担当に こっ(ぴど)くやり込められた後 コンパぐらい企画しろよと 理不尽な交換条件にも 首を縦に振る事しか出来ず それでも自分が 男である事が 唯一の救いであるかのように 慰めつつ 携帯電話の連絡先の 女の名前を必死で手繰(たぐ)る 項垂れてバスに乗り込み たったの十五分の乗車の間も 疲れ果てて泥のように眠り 気づけば紺のネクタイが 涎で白くシミになっていて 自分だけが分かる鼻をつく 蜂蜜のような異臭に 軽く悶絶をし目を覚ます 再び階段を上がるにも 朝と同じルーチンで 階下を眺めて瞑想した後 先ほどの担当者からの お情けのFAXの処理をする そんな事をしている間に 終業時刻を とっくに一時間は過ぎていて 先輩が帰りたそうに コートを羽織って缶コーヒーを(すす)っているが (いま)だ日報すらも書けていない 先輩の 無言の圧に負けたのもあるが 何を隠そう 早く帰りたいと言う 自分の欲に負けたので お待たせしました と何食わぬ顔で言ってから 日報はそっとカバンに仕舞い込み 自分とてやり遂げたような顔で 一丁前に担当者の愚痴など(こぼ)してみる
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