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あとがき
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
興味を持って頂いた方、目を通して頂いた方、皆様に感謝です。
以下、あとがきになります。
読まれるとは思わずに調子に乗っている私ををどうかご覧ください。
三島由紀夫の『命売ります』を初めて読んだのは社会人になって数年目のこと。
主人公が絶望する過程に震えるほど興奮を覚えた。これが真理だと思った。見つけた、と思った。その後のストーリーは正直あまり覚えていない。主人公が命を売ろうが死のうがどうでもよかった。私にとって大事なのは、主人公が絶望したきっかけだ。冒頭から新聞の文字がゴキブリになってしまうところまで。作者が説明に堕したと書いたその部分を、狂ったように読み返した。
その時の震えるほどの衝動と共に書いたのがこの話だ。
当時の私は常に絶望を抱えていた。それがどの程度支障があるのかと言えば、本当に人に話すほどではない癖に、突然降りかかってきては死にたくなるほど馬鹿みたいにでかいのだ。嫌なことがあったわけでもない。誰かが死んだわけでもない。それでもふとした瞬間絶望する。駅の階段を登っている時、友人と他愛のないおしゃべりをしている時、スニーカーを履いて爪先を打ちつけた時、そいつはふわりとやってきて私を覆う。なんとも空虚な絶望だ。
この空虚に対する抵抗として、ひたすらに彼らを生み出し想像する。どうしたって経験のできない希望と絶望を感じたくて口を開ける。確かな虚構を求めてただひたすらにハザマに手を伸ばす。創作とはなんと罪深き行為なことよ。
冷たくなってきた空気に怯え、短くなってきた日に気落ちしつつ、次はどの世界に行こうかな、などと熱いコーヒーを啜る。(2023.10.26)
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