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“同類“
歯並びと姿勢の悪い男だ。
逆三角形の輪郭は骸骨を思わせるほど不気味に痩せ細り、厚い前髪は鋭い目を覆い隠すほど長い。これでもしゃんと背筋を伸ばせばまだいいものを、常に地面に落ちた小銭を探しているかのように下を向いているのが情けない。
そのクラスメイトの名前は、シモダノゾムといった。
シモダはカフェに来ながらメロンソーダを注文し(どうやらコーヒーが飲めないらしい)、僕には一番人気だというホワイトカフェモカを勧めてきた。丁重に断りブラックコーヒーを注文する。注文を取っていた女が百点満点の愛想笑いで立ち去り、香水の匂いまで消えたところでようやく、シモダは口を開いた。
「彼女はどう?」
スキニーからこぼれ落ちそうな丸いお尻に目を向けながら、僕は首を傾げる。
「完全に君の趣味だな。あのピアスホールの数はいただけないね。軟骨にも空いていたじゃないか。きっと遊び人だぜ」
「年寄りみたいな偏見するんだな。軟骨に開いていたら遊び人かよ」
シモダはヒヒッと下品な笑い方をして、耳にかかる髪を避けて見せた。そこには彼の歯と同様にごちゃごちゃしたシルバーアクセサリーがいくつも耳を貫通していた。
思わず顔をしかめる。シモダはその反応に満足したように髪を下ろすと、注文前に出された水を一気に飲み干した。浮き出た喉仏が大袈裟に動く。
「俺からしちゃあ、恋人がいるのに女のケツを追っているお前の方がよっぽど遊び人だと思うけどね」
「何度も言わせないでくれ。僕は誰構わず寝たいわけじゃない。たった一人の理想の女性を探しているだけだ。誰よりも真っ当で、教養のある美しい女を」
「へえ。人には人の美学ってやつがあるんだね。でもそんな素晴らしい女なんて、とっくに他の男と寝てるだろうよ」
「処女に拘っていない。そうであればなおいいとは思うけれど」
「拘ってるじゃないか」
反論しようと口を開いたところで、例の彼女が注文の品を持ってきたので言葉は行き場を失った。コースターを置くときに少し前屈みになったシャツの胸元から小さな膨らみが見えたが、色気はない。痩せすぎだ。だらりと垂れたチェーンだけのネックレスも余計だった。
もう一度彼女が去るのを待って、シモダは両手を開いたり閉じたりする。その様子は鎌を忘れた死神がどうにか人間の魂を刈り取ろうと必死に足掻いている様子に見えたが、どうやらそうではないらしい。
「いいと思うけどなあ。特にあのお尻は、こう、両手で掴みたくなる」
僕は急に不安になって、前のめりに囁いた。
「おい待て。まさか彼女が紹介したい女ってわけじゃないだろうね」
死神は再度下品に笑うと、メロンソーダにひっついてきたさくらんぼを咥える。
「まあそう急くなって。成田くんのお眼鏡にかなう女性を、ちゃあんとご用意しておりますとも。ただ彼女と会う前に、一つだけ予備知識を入れておく必要がある。だからこうしてカフェに誘ったんだ」
シモダはデニムのポケットから、クシャクシャになった新聞の切れ端を机に置いた。最初は何かの梱包代わりにしているのかと中身が出てくるのを待ったが、様子を見るにこの新聞が主役のようだ。僕は手元に引き寄せて広げる。
『S高校集団パニックか。生徒数名が病院に運ばれる』
記事は、地元では有名なお嬢様学校のテニス部員が、集団パニックに陥ったというタイトル通りの内容だった。重大ニュースの間を埋めるだけに作られたようなこじんまりした記事で、情報量が少ない。
僕は嫌な予感がして、シモダの表情を窺った。彼は大真面目な表情で見つめ返してきた。
こんな顔、学校にいる時はしないくせに。
「昨日帰ってすぐだったかな。かなりの頭痛に見舞われたんだ。一年に一度あるかないかレベルでねえ。そして“例のあれ“だよ。目を閉じても、薬を飲んでもどうにも効かないんで、終いには吐いちまったくらいさ。でもその後この集団パニックの速報が入ってきたのを確認して、俺はすぐに察したよ。こんなにでかい“あれ“が来たんだ。絶対に何か関係がある。だから成田くんに連絡してみた。すぐに飛びついてくるであろう内容を送ってみたけど、案の定しばらく返信はこなかった。思うに、お前もあの時間ぶっ倒れてたんじゃないか?」
「恋人と幸せな時間を過ごしていたんだ。君と連絡を取る暇なんてなかったんだよ」
僕は記事を再度詳細に読み込む。事件が起きた時間帯は、ちょうど昨日、赤黒い月の世界へトリップをしたのと同じだった。
どうにか矛盾点はないか探す。彼の言うことを認めたくないというよりは、面倒ごとに付き合わされるのはごめんだという気持ちでいっぱいだった。
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