10話 行きましょうか?

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10話 行きましょうか?

 王子に連れられて、こっそり城の裏口に回ると幌馬車が待機していた。 「この幌馬車の中には着替えが用意されています。私は別の場所で着替えてくるので、どうぞシンデレラも着替えて下さい」 王子はそれだけ告げると、再び城内へ入っていった。 「う〜ん……もう少しこのドレスを着ていたい気もするけれど……動きにくいから、まぁいいか」 幌馬車に乗り込むと、中にはランタンが置かれて明るく照らされていた。大きな木箱があるので、開けてみると中には麻地の粗末なワンピースが入っている。 おまけに木の靴まで入っていた。 「なるほど、これに着替えろというわけね」 私は早速着替えを始めた―― **** 「シンデレラ、準備は出来ましたか?」 ちょうど着替え終えた頃に外で王子の声が聞こえてきた。 「はい、終わりました」 返事をすると幌が開けられ、先程とは打って変わった農夫のような姿をした王子が現れた。それでもその美貌は光っている。 「ああ、やはり思ったとおりだ。とてもお似合いですね。その姿……とても素敵ですよ?」 「はぁ……ありがとうございます」 褒め言葉と受け取って良いのだろうか? 若干疑問を感じつつ、お礼を述べる。 「では早速行きましょうか」 王子も幌馬車に乗り込むと、夜風が寒いからと言って幌を閉めると同時に馬車はガラガラと音を立てて走り始めた。 「今から行く場所ですが、到着したら一言も話してはいけませんよ? そういう風習と決まっていますから。声を上げるのも厳禁です」 「はい、分かりました」 中々本格的だ。他に色々な細かい決まり事を王子は説明してくれた。 そこでは、走ってはいけない。なるべく亡者らしい、ゆったりした足取りで歩く……などなど。 それらを一語一句聞き漏らさないように話を聞きながら、徐々に私の緊張感はたかまって行くのだった―― **** ガコン 幌馬車が音を立てて止まった。すると王子が小声で囁く。 「いいですか? シンデレラ。到着したので、先程の注意事項を守ってくださいよ」 「はい」 私の緊張はマックスだった。 そして私は王子と一緒に幌馬車を降りようとしたとき―― 「あ、そうだ。大事なことを忘れていました。シンデレラ、これを被って下さい」 王子はいつの間に持っていたのか、大きな麻袋からまるでヘルメットのような物をとりだした。 「は、はぁ……」 訝しげに受け取り……思わず悲鳴をあげそうになった。 それはまるでハロウィンに使われるジャック・オー・ランタンにそっくりだった。ただ違うのは、それがカボチャではなく…… 「! な、なんですか……こ、これは……」 「これですか? 魔除けのお面ですよ?」 「い、いえ。素材です。そ・ざ・い。何から作られているのですか?」 「カブです」 こともなげに答える王子。 「は? カブ……カボチャじゃないんですか?」 「カボチャ? 何ですか、それは」 首をひねる王子。 「そ、それではパンプキンと言えば分かりますか?」 すると悲しげに目を伏せる王子。 「申し訳ありません……カボチャもパンプキンも聞いたことがありません」 「そ、そうなのですね……」 ああああ!! やっぱり! この世界では何故かカボチャが存在しないのだ! それにしても……私は改めて、カブバージョンのジャック・オー・ランタンを見つめる。 そうか、カボチャは色がオレンジだったからまだどこか可愛らしく見えたのか。それが、白だと……こんっなに不気味になるなんて! 近くで見ても怖いけれど、遠目からではドクロにも見える。 「あ、あの……ヒッ!」 見ると、いつの間にか王子がカブを被っている。う……こ、怖い…… 「さぁ、シンデレラも被って下さい」 くぐもった声で王子が言う。 「わ、分かりました……」 私は観念してカブを被った。う、息苦しい。 「では、行きましょう」 「はい……」 王子が幌馬車を降りたので、私もそれにならって降り……そこでまた叫びそうになった――
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