6話 まさにファンタジー

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6話 まさにファンタジー

「キャアアアアアアアーッ!!」 馬車の中に私の絶叫が響き渡る。何これ! 速い! 速すぎる! まるでジェットコースターに乗っている気分だ。 いや、まだジェットコースターンの方がマシかも知れない。なぜならジェットコースターの方がこんなに激しくガタガタと揺れはしないのだから!! 「いやあああああーっ!! と、止まってー!!」 叫んで、あることに気付いた。 「こ、この馬車って……止まるの? いや、そもそもお城に向かっているの!?」 何しろ馬も御者も所詮中身はただのネズミ、しかもドブネズミだ。信頼できるはずがない! 「だ、誰かー! 助けてー!!」 こうして、人生初の馬車体験が恐怖の時間と化したのだった―― **** ……どれくらい、馬車は走り続けただろうか…… ガクンッ! 突然車体が大きく揺れて、頭をしたたかに打ち付けた。 「い、痛い! 今度は何!?」 打ち付けた頭を抑えると、突然馬車の扉が開かれた。 「……え? 着いたの?」 邪魔なドレスを何とかどかし、ムクリと起き上がる。すると、目の前には魔法使いによって御者の姿に変えられたドブネズミが立っていた。 彼? は私に右手を差し出している。 「もしかして……手を貸してくれるの?」 尋ねると、コクリと頷く。よく見ると、栗毛色の髪に大きな瞳の御者は中々良い外見をしている。 「……ありがとう」 中身はネズミだということを無理に心の奥に押し込め、差し出された手を掴むとグイッと引き起こされた。 うん、中々力持ちじゃないの。 御者の助けを借りて、馬車から降りる。大丈夫、これはネズミじゃない、ネズミじゃない…… 「ありがとう」 エスコートしてくれた御者にお礼を述べる私。すると…… 「チュッ」 笑顔で頷く御者。 え……? い、今……チュッって鳴いたよね……? 思わず全身に鳥肌が立つも、自分に言い聞かせる。 落ち着いて……今のは空耳。そう、ただの空耳なのよ…… 「ス〜ハ〜」 深呼吸して、ようやく周りを見る余裕が出来た。 「うわ〜!! すごい!」 私の目の前に広がる景色は……まさにファンタジー世界に登場する、ザ・城そのものだった。 「本当に、まさしく『シンデレラ城』って感じよね〜」 感心して見ていると、続々とドレス姿の女性たちやタキシード姿の男性たちが城に入場していく。 「おっと、感心している場合じゃなかったわ。それじゃ言ってくるわね」 男性御者(ただし、中身はネズミ)に手を振ると、私は勇み足? で城の中へと入っていった。 **** 「す、すごい……!! なんてすごい光景なの!」 城に入ると、思わず目を見開いた。そこにはまるで映画の世界にでも迷い込んでしまったかのような光景が繰り広げられていたのだ。 広々としたホール。高い天井からは豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がり、ろうそくの灯りがゆらゆらと揺れている。 そしてその下では色とりどりのドレス姿の女性たちが、楽しそうに音楽に合わせて踊っているのだ。 「信じられない……こんな世界を体験することになるなんて……」 このときまでの私は、ファンタジーな世界に圧倒されるあまりに肝心なことを忘れているのに全く気付いてはいなかったのだ――
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