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拝啓、僕の愛しい君へ。
いきなりこんな手紙、きっと君は困ると思います。
クラスメイトに聞いて、なんとか今の住所を調べて、手紙を送られるなんて、すっごく困るよね。
君を困らせたくはないけれど、でもどうしても、言いたいことがあるから、ごめん。
君はもしかしたら気づいてるかもだけれど。
あの日の事件の真実を、君に伝えたい。
君は僕のことを恨んでますか。
恨んでるよね。
そりゃ、そうだよね。
あの時は真実なんて、僕は言わなかったけどさ。
でも君は、気づいてたでしょ。
僕が彼女を、君の親友を、自殺に追い込んだんだって。
だって僕は、君にこういったんだから。
「僕は、君の親友が、自殺した理由を知ってる。でも、ごめん。だって、きっと知ったら、君は恨むと思うから。」ってさ。
でもね一つ、伝えたいことがあるんだ。
なんでいまさら、って思うかもしれないけれど。
だって今日は、彼女の命日じゃないか。
10年前の事件を、掘り返してみよう。
僕はすごく、鈍感だったからさ。
同じクラスだったのに、女子も問題だったとはいえ、いじめなんて全然知らなくて。
馬鹿みたいだよね。
君の親友ってことで、彼女とも面識あったのに。
でも、本当にいじめがあったなんて、知らなかった。
言い訳だけれど、いじめがあったのは、女子ロッカーや女子トイレで、男子の大半は知らなかったらしい。
無視とかはわかったかもしれないけれど、そもそも彼女は、君以外とは、全然親しくなかったしね。
気づかないよ。
それが、急に、「一身上の都合で、転校しました」って先生に告げられてさ。
まあ、それが嘘ってこと、皆知ってたけど。
だって、クラスのグループRINEには、いじめの証拠と、そして彼女がマンションらしき屋上から飛び降りるーーそんな動画が、送られてた。
お葬式すら、行けなくて。
「いじめがあったなんて、私、知らなかった」
親友が自殺したあと、君はそう言って泣いていた。
号泣していたよね。
当たり前だよね。
君は僕とべったりだったし、放課後もよく遊んでて。
あんなに笑顔で、デートして……そんな君が、まさかいじめを傍観してたなんて、僕は思えなかった。
僕はいつも、朝一番に登校して、窓から君が登校する様子を眺めてたんだ。
君は親友と仲が良さそうに一緒に登校して。
いじめを傍観なんて、してるはずないよね。
でも思えば、クラスの女子何人かは、女子ロッカーの方へ行ってた気がする。
あのあと、女子は知らなかったとか、逆らえなかったとか、責任転嫁始めてさ。
男子も調子にのって、いじめは悪いことだって、自分たちは似たようなこと、してるくせに、責めて。
クラスは荒れて、主犯らしき女子は引っ越して、不登校になった子もいるけど、大半はクラスに残ってた。
君は、少ししたら、引っ越してしまって。
遠い遠い町へ行ったと聞いたよ。
そのあとクラスは、とにかく荒れまくったよ。
君の親友と僕も、結構仲良かったんだよ。
そもそも君と僕をくっつけてくれたキューピットだし。
中学から同じで、3人すごく仲が良くて。
君は親友と僕が話してると、拗ねてさ。
ただ、彼女とは小説や映画の趣味が合うってだけなのに。
君も一緒に映画へ行ったけれど、すぐ寝てしまって。
その横顔をすごく愛おしいと思って。
告白をしたよ。
僕の恋人になった君の親友は、まるで自分のことみたいに、泣いてくれて。
ところでだけど。
君はいじめのことを知らなんだ。
ずっとそう思ってたよ。
でもさ、知ってたんでしょ?
君はいじめを傍観してた。
そうじゃない?
女子ってすごいね。
親友がいじめられてても、彼氏の前では、『プラネタリウムいこ?』だとか、ねだれるんだもん。
それでいじめが発覚して、女子の立場が悪くなったら、逃げて。
誰にも居場所を告げずに、親の仕事の事情で、なんて言ってたけど、本当なの?
ごめん、嫌な言い方したよ。
君はきっと苦しかったんじゃない?
だから君は、僕の言葉が、親友の自殺について知ってる風だった時、すごく食いついてた。
でも、ごめんね。
自殺の理由がわかるなんて、嘘だよ。
でもまあ、わからないこともない。
いじめられて皆気づかないで、親友は庇ってくれなくて、親友の恋人は、いじめにすらも気づかない。
だからじゃないかな。
たかだか、これだけ。
でも君は、きっと親友の死を、『いじめ』、もしくは、僕が何か、ひどいことを言った、した、って思ってるんじゃないか?
「僕は、君の親友が、自殺した理由を知ってる。でも、ごめん。だって、きっと知ったら、君は恨むと思うから。」
そう言った僕に、君は言ったよね。
「真実を知りたい。教えて」って。
だからこの真実を伝えようと思う。
君はすごく、成功してるよね。
女優だなんて、すごいよ。
ああこれは決して、妬みなんかじゃない。
僕は、何があったとしても、君の味方だから。
すごく考えて。
この手紙は、君のためにも、いますぐ破って捨てるべきなんだとか。
全部なかったことに忘れてしまえとか、いっぱい考えて。
でも、真実を伝えたかった。
君は、それを嘆くだけじゃないって……前に進めるって信じてる。
ああ、でも僕はすごく度胸がないね。
君には、笑っていて欲しい。
僕はさ、恥ずかしいけれど、君の太陽みたいな笑顔に惚れたんだよ。
もし伝えたら、あの太陽みたいな笑顔は、見れないかな。
そう思ったら真実を、やっぱり伝えたくないや。
だって君はもしかしたら、親友なんて忘れて。
もちろん僕だって忘れて。
世界中の人を救えるって。
僕は、恋は盲目っていうからかな、信じてる。
でも、本当、どうすればいいんだろうね。
すごく考えて、決めたよ。
僕は、こうする。
馬鹿みたいなことだけど、この手紙の住所を、一つだけ変えることにする。
君の家の隣の住所を書くことにするよ。
もしも君の苗字が変わってたりして、届かない可能性だってあるから。
あはは。
馬鹿みたいだよね。
でも、もしかしたら、そしたら、届かないかもしれない。
1%でも、届かない可能性がほしかった。
気休めでも、届かないでほしかった。
でも、届いて欲しい気持ちもある。
だからどうか、返事なんて、送らないでね。
この手紙が送られたことも、知らなくっていいことだから。
二度と会うことない、君のことが世界一好きな僕でした。
じゃあね。
***
あーあ、と、私はため息をついた。
何度も何度も読み返して、今朝届いた手紙だけれど、もう10回は読んだよ。
でも、本当にどうしよう。
まさか、彼も思わなかったんだろうなぁ。
なんていうか、彼は少し、抜けたところがあるって言うか。
冷静だし、着眼点が少し、『特別』で、でも少しドジっていうか、詰めが甘い。
でも、そう言うところが愛おしいんだ。
私の親友も、私も。
まあ、こればっかりは、彼じゃなくったて想像しないかもね。
まさか、有名な女優になったあの子は、何度も何度も引っ越しをしていてて、もうあの住所じゃあ、絶対届かない場所に住んでいて。
その親友で、自殺したと思われている、この私が、親友の家だった場所の隣、すなわち、この手紙の住所に引っ越しているなんて。
しかも、私の両親は離婚して、苗字が変わっていて……まあ、奇跡みたいなものだけれどさ。
そもそも、皆遺体を見てないんだし、思い込みは危ないよねー。
あの動画は、転校前の、ただ、本当に些細な逆襲っていうか、復讐っていうか……本当、些細で、馬鹿みたいな行動だったんだけど。
ってか、普通死んだら送れないでしょ。
親が送ったとでも思ったのかな。
まあ、復讐目的で、あるかな……いやないでしょ。
にしても……。
彼は、相変わらず、詰めが甘い。
ーーたぶん彼は、私が自殺しようとした理由を知っているんだろう。
でも、私の親友には、それを伝えようとしなかったのだ。
この手紙が送られたこと『も』。
他にも、知らなくてもいいことがあるってことでもあるじゃないの?
それは何か?
私が、自殺しようと思った理由だ。
実は、遺書がある。
書いてたのだ。
それも、黒板に貼り付けて。
それを回収できたのは、いつも朝一番に来てる、彼だけだ。
その遺書には。
『親友のいじめを庇っていたのにもかかわらず、親友まで私の敵になって、悲しい。裏切られた』みたいな内容で、書かれてる。
それを、彼が取っちゃったから、私の親友は、私がいじめが苦にして自殺したーーって思ってるんだろうな。
で、彼は、遺書から実は親友に原因があるって知って、隠して。
でも、真実を話した方がいいのか、悩んで。
それで、すごく曖昧な手紙を送ったんだろう。
彼女に、『君の罪は、親友のいじめを傍観した罪だ』っていう……。
いじめを庇ったって言っても、それは影でのことで、彼女はそんなこと、全然知らないと思うし。
でも、実は。
あの遺書は、ホンモノじゃない。
私の遺書だけど、私の本心じゃない。
事実、自殺してないしさ。
もし、私があの時自殺するとしたら、それは……。
仲のいいと思っていた親友に、好きだった人を略奪されたこと、かな。
私の方が、仲は良かったのだ。
キューピッドなんて、惨めすぎてごまかしただけだ。
彼女は、もしかしたら、気づかなかったのかもね。
すごく優しくて、……おめでたい子だったから。
いじめの傍観で、あんな自分を責めちゃう子だもん。
よく、家で泣いてたり……彼女のお母さんが、そう言ってた。
まあ、彼氏には、甘えてたらしいけど、そこはさすが、彼女も女だったってことかな。
原因は、『いじめ』じゃなくって、『いじめの傍観』でもなくって、『略奪』だと知ったら、きっと傷ついてーー。
あれ?
彼は、彼はーーそのことを、知っているんだろうか。
私の親友、憎き親友、愛しき親友。
彼の、最愛の人。
彼女に知られたくない真実は……。
本心じゃない遺書に書かれた、いじめの傍観?
それとも、略奪?
この手紙は、彼が彼女に告白して、私が泣いてってところから、急に『君はいじめを知ってたんじゃない?』って話が変わって。
それに、『自分のことみたいに泣いてくれて』って、泣いて喜んで、ではない……。
どうする?
彼女から、直接聞き出してみる?
方法は、手荒い手段であれば、いくらでもーー。
いや……。
私もなんだかんだであまちゃんなのだ。
でなきゃ、正体隠してまで、女優になった彼女に近づいて、義父の権力で、助けたりなんてしないもの。
義父の権力だけじゃないけどね。
私自身、昔、マンションの屋上から飛び降りる……みたいな動画を、編集しまくって、作ったんだもん、一応、そういう業界の裏方をしてる。
でもまあ、いつかTV番組で、高校生時代の闇暴露!みたいなのでも、やろっかな。
それで、別に、罪を告白しなくっても、もしも彼女が反省してると思ったら。
その時は、あまーい私が、きっと許すんだろう。
真実を、全部全部ぶちまけて。
彼も一緒に、真実を知る。
もしかしたら、彼女はすごく、傷付くかもしれない。
精神的にね。
私の復讐は、たぶん、それだ。
実現するかも、わかんないけど。
復讐になるかも、全然わかんないけど、さ。
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