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金髪の男は反社的にスキー板を真横に向け急ブレーキをかけて停止した。後ろからついて来ていた女二人もあわてて止まろうとして、なんとか雪面に尻もちをつく格好で、その物体の直前で停止できた。
「おい、大丈夫か?」
金髪の男がスキー板を大きく上下させて、スノーボードに乗っていたあごひげの男の元へ駆けつけた。あごひげの男は右の膝を両手でつかんでのたうち回っていた。
「い、いてえ、いてえよ。膝が、膝が……」
「一体何が飛んで来たんだ?」
金髪の男が飛んで来た物体を見て目を大きく見開いた。
「こりゃ、壁? 窓? なんでこんな物が?」
それはプレハブの建物の窓が付いた壁の部分のように見えた。2メートル四方ほどの大きさだった。
体勢を立て直し、やっと立ち上がった女二人が同時に甲高い悲鳴を上げた。
「きゃあ! 何よあれ」
「う、うそだろ。熊じゃない。か、怪物?」
女たちが指差す方向に視線を向けた金髪の男は、へなへなと尻を雪面に落とした。真っ青な顔で、震える声でつぶやいた。
「わわ、わわ、巨人?」
数本の樹木の向こう側にその影が見えた。それはどう見ても立ち上がっている人間のシルエットだった。だがその頭部は見上げるほど高い位置にあった。
その巨人は手に持っていたプレハブ建造物の屋根らしき部分を反対方向に放り投げた。大きく重い物が雪の斜面に突き刺さる鈍い音がした。
巨人は4人のスキー客の存在には気づいたようだが、彼らに気を止めた様子はなく、そのまま背を向けて森の奥に分け入って行った。ズシンとした足音の振動が金髪の男の尻にまで伝わって来た。
巨人の姿が見えなくなり、金髪の男と女二人は、雪面でもがき苦しんでいるあごひげの男の事を思い出し、一斉に駆け寄った。
あごひげの男の顔面は痛みで蒼白になっていて、軽いけがではない事をうかがわせた。金髪の男が彼の足をそっと触ってみて言った。
「血は出てねえみたいだ。けど最悪、骨折れてるかも」
金髪の男があごひげの男の体を背負い、女たちが左右から支えながら、スキー場の事務所などがある区域へ連れて行こうとする。
急に一陣の強風が4人に吹き付け、大粒の雪が視界一面に舞い降り始めた。すぐに降雪は強風にあおられて横なぐりになり、4人の視界を完全に遮った。
金髪の男が泣き出しそうな声で言う。
「だめだ、方向が全然わかんねえ。ホワイトアウトだ」
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