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翌日の午前10時、現場となったスキー場に自衛隊の輸送ヘリが舞い降りた。昨日とは打って変わって青く晴れ渡った空の下、ヘリはスキー場の脇の開けた平らな場所に着陸した。
(写真:陸上自衛隊公式サイトより)
着陸したヘリから降り立ったのは、二人の自衛官に付き添われた渡研の5人だった。
全員が防寒着を着こんでいたが、機外に出た途端、松田以外の4人は腕を体に巻き付けて震え上がった。宮下がニット帽の端を引き下ろして耳を覆いながら言った。
「さすがに寒いですね、この標高になると」
筒井が半べそをかいた表情で同意する。
「地球って温暖化してるんじゃなかったんですか? なんか今年の冬は以前より寒くなってるように感じるんですけど」
渡が手足を大きく左右に振って、運動で体を温めようとしながら苦笑気味に言った。
「おいおい、物騒な事を言うもんじゃない。こんな高原のスキー場まで暖かくなるような急激な温暖化なら、とっくに南極の氷が解けて東京は水没しとるぞ」
遠山が手袋をはめた両手をごしごしとこすり合わせながら渡に訊いた。
「とは言え、冬が余計寒くなるって事あるんですか?」
渡は軽く足踏みをしながら答えた。
「私もその分野の専門家ではないから、また聞きの話だが。温暖化による気候変動のメカニズムはまだよく分かっていない点が多いんだ。単純に世界中の気温が上がるわけではなく、二極化するという説もある」
「二極化ですか?」
「たとえば、北極圏が温暖化して氷山が解けたとする。その海水の温度は、しかしながら冷たいままだ。その低温の海水が高緯度域から中緯度域に流れ込んで来れば、上空の大気が冷やされて世界の一部ではかえって寒冷化する場合も考えられる。日本の冬にもそういう現象が起きているのかもしれんな。夏はどんどん暑くなり、冬はどんどん寒くなる。あるいは気温が上昇し続ける地域と夏場の平均気温だけが下がる地域に分かれる。だから二極化というわけだ」
ヘリに同乗していた自衛官の一人が渡の側にやって来た。
「現場の検分の許可が出ました。ご案内しますので、みなさんついて来て下さい」
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