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雨は天の恵みであり、人の力でどうこうできるものではない。
しかし愛の力でなら天をも動かす事ができるのかも知れない。
ナーディアがザイードを想い祈りを捧げた。
祈りはついに天をも動かし、雨雲を呼び寄せた。
その範囲は王都だけでなく捨て去られた土地、町、乾いた大地、枯れた川にもまんべんなく降り注いだ。
さらに雨雲はマトハル国全土に広がり、伝説のように三日三晩、雨が降り続いた。
それはやがて隣国にも広がり乾いた大地、あらゆる生物、あらゆる砂漠の上にも降り続いた。
しかしそれは荒ぶるような豪雨でも、水害を起こしてしまうほどに酷い雨でもなく。
誰もを優しく包み込んでくれるような、まるで優しく流れる水源の小川のせせらぎの様な、汚れた体を労わるように洗い流してくれるような。
優しい、優しい、雨だった。
お互いを想い合うザイードとナーディアを包み込むような、優しい慈雨だった。
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