4-4.慈雨に包まれて

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 ナーディアは思い出していた。  ゲシュム族が崇拝する女神ヤームルは慈悲と慈愛を司り、太古、地上が大規模な干魃により滅びようとしていたその時に、この世の全ての生物を潤すために慈雨を降らせたという伝説を。  その時、女神の祈りの手は温かな白銀の光に包まれていたのだと。  まさかゲシュム族は女神ヤームルの血を引いていたのかしら。  そんな事を思うナーディア。  それを不思議と受け入れるザイード。  その光に包まれたザイードとナーディアは互いに握り合う手に力を込めた。    ——————ポツリ。  2人の顔に同時に水滴が滴る。  見上げれば先程まで中心部にいた灼熱の太陽は姿を隠し、代わりに曇天が広がっていた。  ザイードの綺麗な髪色のような灰色の空。  二人は目線を絡めて微笑した。    「雨だ」  誰かが呟く。  そしてその後はかなり明確に。  さらに後には大歓喜に。  「雨だ……雨だ!!……雨だぞ!!」  「雨だ…………!!神よ………ザーハブ神ではなく、女神ヤームルよ!  感謝いたします!」  「王様……!王妃様……!ありがとうございます!ありがとうございます!」  誰もが恋焦がれた雨が、穏やかな音を奏でて降り始めた。  それはやがて宮殿や広間に、そして王都全体にも勢いよく降り注ぐ。  皆は雨にびしょ濡れだったのに大喜びでそれを全身に浴び、涙を流した。  手を取り合い飛び跳ねた。  その時の人々の顔を表現するとしたら、幸福という文字がとても似合っていた。
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