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4-5.今夜あなたを
国を立て直すという事は容易ではない。
しかし今のザイードは何か悩んで立ち止まる時、共に思案し意見し合えるような、信頼できる臣下達に恵まれていた。
大臣の下にはムヤイヤドとルシュディーを付けて、国の再建と前進に貢献して貰っている。
それにナーディアの起こしてくれた奇跡に感謝して、無駄にしないようにしなくてはいけない。
大地は潤い、川が戻ってきた。
それからも雨は定期的に降るようになった。
山々に染み込んだ雨はやがて小さな大河をも作った。
ヤパルルクの種は成長を始め、国民は笑顔で汗を流して畑を耕し始めた。
国内では王都や主要都市に水路を確保し、濾過装置を増やしていく計画が進められている。
また、良質な穀物の種も改良中だ。家畜の生産や農業にも力を入れている。
それまでは閉ざされていた積極的な国同士の交流の再開と、国の伝統工芸品などの輸出、輸入なども開始した。
この国はもう大丈夫。困難に立ち向かう術を持ち、努力し、諦めない事を知った。
きっとどこまでも皆と一緒に走っていける。
◇◇◇
王宮に引っ越しを済ませたザイード達はようやく平穏な日々を取り戻しつつあった。
だがザイードにはどうしても、越えなければならない壁がある。
急ぎの政務を終え、ため息を付くザイードを不思議そうに見るアクラム。
彼はザイードの専属護衛に昇進している。
「陛下?何ですか、ため息ばかり吐いて。
もしかして何か…王妃様に嫌われるような事でもしたんですか〜?」
相変わらずアクラムはザイードを茶化すが、ザイードにはそれを咎める元気すらない。
皆はとっくに夫婦だから当然と思っているだろう。
実はザイードは今夜…とある覚悟を決めていたのだ。
それはザイードにとって、どんな政務よりも難しい事柄なのかも知れない。
『ナーディア、今夜は王の寝室で待っていてくれませんか。』
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