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◇◇◇
優しい花の香りがする。王宮の使用人達が寝室のベッドメイクを念入りにやってくれたのだろう。
彼女の好きそうな香りだ。
ザイードが沐浴を終えてバスローブを羽織り寝室に入ると、ソファには緊張した面持ちのナーディアが座っていた。
日中は互いが活動的する際は寄り添い、肩を並べるのも慣れたが、夜はまだこうして緊張してしまうのはザイードも同じ。
「お疲れ様でした、陛下…ザイード様。」
先に沐浴を済ませた彼女も薄いピンク色のバスローブを羽織っていた。
薄茶色の髪からまだ水滴が滴っている。
「ナーディア、そのままだと風邪を引いてしまいますよ。」
ザイードは子供をあやす様に笑い、クローゼットから真新しいタオルを取り出した。
「着替えは相変わらず、使用人には任せないみたいですね。」
ナーディアはマタルに来てからずっと、誰かに着替えを手伝われるのを嫌がっていた。
ザイードはその理由についてずっと勘付いてはいたけれど、あえて触れない様にしてきた。
彼女の隣に静かに腰を下ろし、その柔らかい髪の毛先を束にしてタオルで拭き取っていく。
「あ、ありがとうございます。ザイード様」
照れ臭そうに、けれど何処か嬉しそうにナーディアは礼を言う。
細くて白い首筋が目の前に現れてザイードは思わず目が眩みそうになった。
しかも彼女からは石鹸の何とも良い香りが漂っている。
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