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(はあ…理性を失うってこの事を言うのか)
首を傾けて大人しく髪を拭かれているナーディアの存在が、堪らなく愛おしく感じられる。
(彼女がマタルに嫁いできた頃はまだ…こんな風に触れられるようになるなんて思いもしなかった)
(正直、もうこれ以上我慢できないのだが)
ザイードは蜜に吸い寄せられる蜂のようにナーディアの髪を一すくいして、それに口付けをした。
どうしても確かめずにはいられない事がある。
覚悟を決めザイードは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「ナーディア…その。答えにくいかも知れませんが…貴方はその。
ガシェー王に抱かれた事があるのですか?」
何て下卑た事を聞くのだろう。
しかしザイードはどうしてもそれを聞かずにはいられないという衝動に駆られていた。
それは…興味というよりも嫉妬に近い感情だったのかも知れない。
答えを聞くのに怯えていたが、ナーディアがこちらに振り返り、何とも神妙な面持ちで、恥ずかしそうに呟いた。
「いえ……その。私はガシェー王と初夜の日に、肺が苦しくどうしても咳が出てしまいまして。
それに気分を害されて王はそれ以来、私の宮には現れませんでしたから。」
美しい紫のアメジスト色の瞳が潤んでいた。
(ああ、よかった。)
いや…もしナーディアがガシェー王に抱かれていたとしても、それはそれで構わないと覚悟はしていたが。
ナーディアのこの何ともいじらしく、晴れやかな顔が全て事実だと物語ってくれている。
心底にザイードは安堵してしまう。
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