12人が本棚に入れています
本棚に追加
そうだ、塾でのあの集団感染さえなければ――ありなが志望校を変更することもなかったんだ。僕の隣にいただろう、今までとなにも変わらず。そのはずだったのに。
「O高の詰め襟、恰好いいなぁ」
けれどありなはあいかわらず、朝から明るい声を出して余力十分だった。
「褒めても、なんもでねーよ」
「それに蒼、また背が伸びたんじゃない? 今、何センチ?」
「百八十三センチ」
「ひゃー、嘘でしょ。小学生のころはわたしのが高かったのにっ」
「いつの話してんだよ」
「きっとまだまだ伸びるねっ。楽しみ!」
その時ちょうど僕の乗るのとは反対方向の電車がホームに入ってきた。
「あっ、電車来たっ。じゃあまたね、蒼!」
大きく手を振り、ありなが車両に乗りこむ。ベルが鳴って扉が閉まる。あっという間に満面の笑顔が遠ざかっていく。
最初のコメントを投稿しよう!