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そうして夏が終わるころ、僕は近所で一番高い丘の上の公園に呼び出された。日暮れはとうにすぎ、澄んだ群青色の空には明るい月と夏の星座が光っている。
「ちょっと遅い、蒼。五分遅刻っ」
近づくなり、ありなはそう僕を非難した。
「いいだろ別に、五分くらい」
「いや、ダメ。とにかく空を見ててよ、もうすぐなんだから」
「は? もうすぐ?」
「いいから、ここに立って動かないでっ」
僕はわけもわからず首をひねる。
マスクで顔が隠れていても、ありながひどく緊張しているのはすぐにわかった。空? ひょっとして、これからなんとか流星群とやらが見えるんだろうか。しかしああいうのは、だいたいが深夜か夜明け前のイベントだった気がする。
「それにしても……月、綺麗だな」
僕はちらりと隣を盗み見た。湿気った生ぬるい風がありなの髪をなぶっている。秋の虫の声が聞こえ、暗い公園には二人しかいない。
「そうだね。蒼は月、好き?」
とたん、ありなのぱっちりした瞳がこちらをむいた。黒目が月光を反射する。不覚にも僕はその輝きに見惚れて息をつめた。
「まあ……嫌いじゃないけど」
「わたしは好き。すごく大好き」
なんだこれ。ひょっとしてこいつ、僕に気があるんじゃないか、そう思った瞬間だった。
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