12人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはよう、蒼」
「おう、おはよ。……ん?」
僕は軽く眉を上げた。
「なんだ、そっちはもう夏服か」
「えへへ、今日から解禁なんだ。どう?」
目の前でひらひらと蝶みたいにスカートが回り、僕は目のやり場に困って視線を外した。
「それより頭痛と倦怠感はもう大丈夫なのかよ」
「あ、コロナ後遺症? うん、もうだいぶよくなってきたかな」
Y高の校章が入ったセーラー服を着たありなは、腕を曲げて力こぶを作る仕草をした。
「ごめんね、冬場は迷惑かけちゃって」
「別に。たいしたことはしてねーし」
僕はありなに気づかれないよう、そっと息をついた。そうか。よかった、元気そうで。
昨年末から今年初めにかけてのコロナ第八波、あれは最悪だった。僕は本気で世間を呪い倒したかった。三年間ずっと耐え忍んできたあげくの果てがこれかよ。なんで今なんだ。頼むからやめてくれ。僕らの受験はこのワンチャンスしかないんだぞ。
最初のコメントを投稿しよう!