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1.2020年の夏
6月25日の木曜日。
午後から高山は天文部の公式活動で授業を抜けることになった。運動部の試合などで認められている公休というやつだ。文化部では珍しいが、彗星の観察のため今回だけ特別に認められた。
顧問教師の浅井篤夫先生の運転する7人乗りワンボックスカーに部員3人と器材を積み込み、兵庫県北部にある神鍋高原キャンプ場に行った。部員は2年の梶本と矢野、そして1年の高山の3人だけの小さな部だった。
「高山ぁ。望遠鏡とパソコンは俺らが運ぶから、お前はテントを持ってこい」
と梶本が言った。重いものを押しつけられた感はあったが、望遠鏡とパソコンは部の貴重品であるし精密機器でもある。そんな大切なものを1年の自分には任せられないと判断したのだろう。高山がクルマから降ろされたテントの入った袋を見るとかなり重そうだった。登山用の軽量のものとは異なり、望遠鏡とパソコンを万が一の雨から守るためのレジャー用のものだった。高山は文句を言わず背中に担ぎ上げ、駐車場からキャンプ場に伸びる登り路を歩いた。
「おう、持って来たな。ここへ設営しよう」
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