タヌキのお札

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「はい、助けていただいて感謝しています。お礼にといっては何ですが、出来る範囲のことでお役に立てるかと」  わたしは、取り敢えず今月必要な二十五万円が何とかならないか相談してみることにした。みみっちい相談だと思われるかも知れないが、貧すれば鈍するという奴である。そのときのわたしにはそれ以上のタヌキの有効利用の方法が思い浮かばなかったのだ。   「人を化かすのがわたしの本分です。何とかしてみましょう」  タヌキは自信たっぷりにそう言ってのけた。「まずは木の葉を二十五枚集めてきてください。大きさは何とでもなります」 「よ、よし」  嫌な予感がしながらも、わたしは、河川敷に生えている灌木から木の葉をちぎってタヌキのもとへと持っていった。彼は手で十字を切り、えいっと気合いを込めると、目の前に散り散りになっていた木の葉が、銀行から下ろしたばかりの手の切れそうな新札二十五枚に変わった。え? と、わたしは喜び、そして、驚いた。    この技がある限りわたしはこの世で無敵の存在になれるではないか。わたしはタヌキのお腹を愛おしそうな目で見つめた。    二十五万円さえあれば、当面恐れるものは何もない。わたしは服を着ると、今の今まで逃げ回っていた借金取りと、アパートの大家のところへ行く気になった。   「旦那様」  タヌキはわたしのことをそう呼んだ。「木の葉のお札が通用するのは人間だけです。ATMや自動販売機には使えないので注意してください」 「お、おう。……大したことないんだな」  そう強がっていたが、重要なことだった。お金を払うには面と向かって支払う必要があるということだ。    そしてまずは二十万円の借金があるニコニコローンに出向いて行った。  アパートの家賃や生活費の補填に当てるために出来た借金だった。低所得ではもはや返せない借金だったが、タヌキ札のおかげで一括返済のめどが立った。  
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