タヌキのお札

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「いやあ、わざわざお持ちにならなくても、振り込みでもよかったのに」  ニコニコローンの窓口の女性はそう言って愛想笑いを浮かべた。そうはいかないのだ。目の前で勘定して早く金庫に入れてくれ。わたしはひたすらそれを願った。    ホッとする思いでニコニコローンを後にし、今度はアパートの大家さんに行った。こちらも現金でおそるおそる支払った。  大家のおじいさんは、胡散臭そうな目でわたしとお札とを見比べた。わたしの風体と新札という取り合わせが違和感ありありだったのかも知れない。指先をぺろりとなめ、四万五千円丁度そろっているのを確かめると、通い帳にはんこをぽんとついた。わたしは心底ホッとした。    そうして気に掛かる支払いを済ませてしまうと、急に気が大きくなり欲が出て、このタヌキを使って金儲けが出来ないかと考えた。   「タヌキさんよ。何かこう儲かる仕組みはないのかね?」  タヌキはちょこんと小首をかしげた。 「わたしの前の旦那様は不動産や高級外車を現金でお買い求めになっていましたね。それを半額くらいで売ってしまうんです。もったいない気がしますが利益率百パーセントの取引ですから誰も損はしません」 「おいおい、タヌキ札を受け取ったら困るじゃないのか?」 「古くなったお札は最終的には、日本銀行へ行き着いて裁断処分されるんです。そのときになって木の葉が混入しているのに気付いても誰も困りません」 「そうか、そんなものか」  彼のアドバイスに従い、わたしも不動産や高級外車、宝飾品に手を出すことにした。とりあえず、今住んでいるアパートを引き払い、大金持ちにふさわしい住居を買い求めるために芦屋(あしや)六麓荘(ろくろくそう)で一戸建を探した。  怪しまれるといけないので、日本語が不自由な振りをすると向こうが勝手に金満家の外国人が不動産を買い漁っているものと勘違いしてくれた。    家を一件買うと後は楽だった。
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