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第10話 一枚上手
学校の正門を出たすぐのところに黒塗りの大きな車が止まっていた。
横目で見ながら通り過ぎようとした時、車のリアウィンドウがすっと開いた。
「こんにちは、璃亜さん。お久しぶりね。ちょっとお時間いただけるかしら?」
大河のお母さんだった。
大河と「破局」してから1週間は経つ。
今更何の用だろう?
運転手にドアを開けられ、後部座席、大河のお母さんの隣に座った。
「出してくださる?適当に流してちょうだい。」
「かしこまりました。」
車が動き出すと、大河のお母さんはこちらを向いて、にこりと微笑んだ。
「あの、ご用件は?」
あの喧嘩で、大河とは別れたことになっているはず。何の用なんだろう?
「璃世さんは蒼くんと仲良くしてらっしゃるのかしら?」
「はい。とっても仲良…」
え?
「そう…仕方がないわね。蒼くんのことは気に入ってるのよね。他の誰かだったらどうとでもしたのに。」
「あの…?」
「璃亜さんと璃世さん、本当によく似てらっしゃる。でもあの子ったら、顔で選んだわけじゃないのね。」
「お話が…よくわからないです…」
「あら。本当はわかってるでしょ?」
「…ご存知だったんですか?」
「初めて璃世さんにお会いした日に、すぐに璃世さんのこと調べたの。それで、大河が本当は璃世さんとお付き合いしてないってこともわかったの。でも、大河があんなふうに女の子を紹介するのは初めてだったから、気がついてしまって。でもすぐに、璃世さんは蒼くんとお付き合いを始めてしまったから、同じお顔だもの、貴方でもいいかと思ったのに…やっぱり違うのね。」
この人…すっごい曲者…
「貴方は、大河のことが好きね。」
この人は、これを聞くためにわたしに会いに来たってことだよね?
「はい。」
「チャンスをあげようと思って。」
「あの、どういう意味ですが?」
「明後日から、主人とわたし、ヨーロッパを回ってくるから、大河は1人でお留守番。家の者には言っておくから頑張って。」
「どうして…」
「随分失礼なことをしてしまったからお詫び。じゃあね、璃亜さん。」
いつの間にか車は止まっていて、運転手がドアを開けてくれた。
車を降りると、大河のお母さんは軽く会釈をして去って行った。
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