第11話 初めてだから

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第11話 初めてだから

大河のお母さんが言った通り、ドアフォンを押すとすんなりと中に入れてもらえた。 何度も来た階段を上がり、ドアをノックする。 「どうぞ。」 えらく軽い返事が返ってきたけど、誰が来たと思ったんだろう? ドアを開けたけれど、大河は振り向きもしなかった。 「大河。」 名前を呼んで初めて振り向いた。 「なんだ璃亜か。」 「なんだって何よ?寂しいだろうと思って遊びに来てあげたのに。」 「留守番くらいできる。」 「何やってたの?」 「ゲーム。やる?」 「ゾンビ倒すやつがいい。」 大河が笑った。 「この前お前の映画見に行った。蒼と璃世とケンタの4人で。お前があの何とかって男にキスして逃げてくところ見て、璃世が泣いてた。」 「そこ泣くとこじゃないのに。」 そう言いながら大河の隣に座った。 「だろ?そしたらさ、蒼が璃世の頭を、さりげに撫でてやってた。いや、お前ら2人で見に行けよ、って感じ。」 それを聞いて、大河の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「何だよ?」 大河は呆れたように言った。 「あのさ、もうそんなに落ち込んでも引きずってもないから。」 「あ、そう。」 「ほら。」 大河がコントローラーをくれた。 わたしの顔を見るたびに、大河は璃世を思い出すのかな? でも、璃世とわたしは同じ顔でも別人なんだよ? 「あ、わたしのチョコだ。」 テーブルの上にわたしがCMをしているチョコの箱があった。 「お前のじゃないだろ。」 「1個ちょうだい。」 「嫌だよ。もう後1個しか残ってないし。」 「いいじゃんまた買えば。」 大河がチョコの箱を手に持って上に掲げたので、それを奪おうとして大河を押し倒したようになってしまう。 その時、いきなりドアがバンっと開けられた。 これ…嫌な予感… 2人してドアの方を見ると、大河のお母さんが立っていた。 「やだっ!わたしったらまたお邪魔しちゃって!2人とも別れたんだと思ってたけど、ただのケンカだったのね!仲直りできたみたいで良かったわ!続けて続けて。」 「旅行じゃなかったのかよ?」 「それがね、あの人の仕事が片付かなくて、1日出発が伸びちゃったの。それを言いに来たの。明日には本当にいなくなるから!仲良くね!」 呆然とするわたしをよそに、大河のお母さんは部屋を出て行った。 「あいつなんなんだよ。」 わざとだ… 「いつまでオレの上に乗ってんの?」 「あ、ごめん。」 何の前後もなく、ポツンと大河が言った。 「あのさ、オレ、同じ髪型で同じ服着られても、璃世とお前の見分けつくから。」 わたしが一番欲しかった言葉を、大河は持っている… 「コントローラー自分で拾えよ。」 わたしが落としたコントローラーを拾っている間に、大河が最後のチョコの包みを開けていた。 「あー!」 そう言った時、そのチョコを口の中に放り込まれた。 「スタート押したから。足引っ張んなよ。」 「それは難しいと思う。」 「何で?」 「初めてだから。」 こんなに誰かを好きになったのは初めてだから。 END
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