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第7話 夢
「良かったぁ。どうなることかと思ったけど、急に津都築ホールディングスから『やっぱりあのシーンはあってもいいね』って言ってきたって。本当に良かった。」
ロケに使われている学校に行くまでの間、持田さんはずっとその話をしていた。
大河の言った通り、あんな何もないとこでキスしたのに、大河のお母さんに伝わったんだ。
あの人、絶対敵にまわしたくない。
「RIAちゃん、準備いい?」
「はーい。」
主人公の好きな人に、主人公が見てるの知ってて、わざとキスして主人公に誤解させるような、嫌な子の役だけど…この子、自分のこと好きじゃないってわかってる人のこと好きで、キスするんだよね…
それって、自分でもバカなことやってるって、わかってるんだよね…
「よーい、スタート!」
わたしはさりげなく主人公がいることを確認して、主人公が好きな男の子に近づく。
男の子が主人公のことを好きなのはもちろん知っている。
どうにもならない片思いだってわかってて、主人公の邪魔をする。
「ねぇ、遥大。」
一言セリフを言って、男の子にキスをする。
それを主人公が目撃したのを確認して、その場を去る。
台本では、主人公に「あざ笑うかのような態度」と書かれていたし、リハでもそうしてきた。
でも…
主人公を見た時、唇を噛んで、まるで悲しいのを耐えてるみたいになってしまった。
「カット!」
「リハと違うよ~。」
助監督に注意されてしまった。
「あ、ごめんなさい。」
「もう一回…」
「いや、いいよ。」
監督が言葉を遮った。
「え?でも監督?」
「これでいく。この方がしっくりいく。あの子もこの男の子が好きなんだから。うん。そうだ。」
「えっと?」
「OKです。」
「あ、ありがとうございます!」
ふわふわとした気持だった。
もっともっとがんばって、大きな役が欲しい。
あの、真ん中にずっと立っていたい。
小さな頃からの夢。
どうにもならない片思いなんてやってる場合じゃない。
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