第7話 夢

1/1
前へ
/11ページ
次へ

第7話 夢

「良かったぁ。どうなることかと思ったけど、急に津都築ホールディングスから『やっぱりあのシーンはあってもいいね』って言ってきたって。本当に良かった。」 ロケに使われている学校に行くまでの間、持田さんはずっとその話をしていた。 大河の言った通り、あんな何もないとこでキスしたのに、大河のお母さんに伝わったんだ。 あの人、絶対敵にまわしたくない。 「RIAちゃん、準備いい?」 「はーい。」 主人公の好きな人に、主人公が見てるの知ってて、わざとキスして主人公に誤解させるような、嫌な子の役だけど…この子、自分のこと好きじゃないってわかってる人のこと好きで、キスするんだよね… それって、自分でもバカなことやってるって、わかってるんだよね… 「よーい、スタート!」 わたしはさりげなく主人公がいることを確認して、主人公が好きな男の子に近づく。 男の子が主人公のことを好きなのはもちろん知っている。 どうにもならない片思いだってわかってて、主人公の邪魔をする。 「ねぇ、遥大。」 一言セリフを言って、男の子にキスをする。 それを主人公が目撃したのを確認して、その場を去る。 台本では、主人公に「あざ笑うかのような態度」と書かれていたし、リハでもそうしてきた。 でも… 主人公を見た時、唇を噛んで、まるで悲しいのを耐えてるみたいになってしまった。 「カット!」 「リハと違うよ~。」 助監督に注意されてしまった。 「あ、ごめんなさい。」 「もう一回…」 「いや、いいよ。」 監督が言葉を遮った。 「え?でも監督?」 「これでいく。この方がしっくりいく。あの子もこの男の子が好きなんだから。うん。そうだ。」 「えっと?」 「OKです。」 「あ、ありがとうございます!」 ふわふわとした気持だった。 もっともっとがんばって、大きな役が欲しい。 あの、真ん中にずっと立っていたい。 小さな頃からの夢。 どうにもならない片思いなんてやってる場合じゃない。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加