第9話 破局

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第9話 破局

「今までありがとう。」 「もう2度と巻き込むな。」 「わかってる。これセリフね。」 知り合いの脚本家に頼んで、ちょっとしたケンカのシーンを書いてもらった。本気のケンカに見えるはず。 大河はわたしの渡したA4の紙をじっと見ていた。 「やっぱり…」 大河がそう言いかけて考え込んだ。 やっぱり、このままでいいんじゃない?とか言う? 「タイミングがキモだよなぁ。あいつが聞いてないと意味がない。」 そうだよね。そんなこと言うわけないか。 わたしのことめちゃくちゃウザそうにしてたもんね。 真剣にセリフを読んでいる横顔を見ながら思った。 大河のお母さんの言ったことは正しい。 初めてキスした相手が大河で良かった。 きっとずっと忘れない。一生の思い出にする。 「多分、何か大きい音立てたらあいつは来る気がする。」 大河はそう言って、声が響くように部屋のドアを少し開けた。 わたしは深呼吸をした。 本当はずっとこのままでいたかったよ。 大河がゴンと、椅子をひっくり返した。 それを合図にわたしは自分のセリフを言った。 「ねぇ、そのちっこいプライド捨てれば?」 「黙れ!お前もう二度と来るな!」 「わたし、ずっと我慢してたんだから!でももうんざり!」 「おんなじセリフそのまま返してやるよ!」 「こっちだって、あんたの顔なんか見たくない!」 部屋のドアを思いっきり強く開けて廊下に出ると、少し離れたところに大河のお母さんがいた。 「失礼します。」 それだけ言って、大河のお母さんとすれ違って、玄関に向かった。 言い争うの絶対聞いてたはず。 わたしたちの「破局計画」は成功だよ。 良かったじゃん。 大河のバカ。
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