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chord 1 吐き捨てろ
微かに吐息が漏れた。
激しい口づけに息ができなくて。
やっと解放されたときには、自分でもどうすることもできず、ただため息がこぼれるように吐息が漏れてしまった。
甘くなんてない。
苦みしかない。
こぼれた吐息に混じっているのは自分への嫌悪感だけで、相手に対してはなんの情熱も湧き上がってこない。
なのに、なんで簡単にキスなんかしたのだろう。
どうしてセックスなんてしようと思ったのだろう。
そもそも男とは初対面で、名前だってよく知らないのに――
女子トイレ。
個室には私と知らない男。
『ちょっとだけでも忘れたいでしょ、ツラいこと?』
そう言われた途端、胸がズクンッと泣いた。
どうしようもないくらい体が震えた。
『忘れたいでしょ』という言葉がずっしりと重く響いた。
私が披露宴の会場からラウンジに逃げ込んだのは彼の言うとおり、ツラい現実を直視できなくなっていたためだ。
だから差し伸べられた手を取った。
モラルもなにも、かなぐり捨てて……
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