chord 33 あきらめない

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 スーツの人に駆け寄り、腕を取る。 「なにか?」  怪訝そうな顔を向けられ、急いで手を離した。  晴翔ではなかった。  小さく左右に首を振り「すみません」と謝ると、憮然とした顔を背けて、そのまま行ってしまった。  放した手を握ったり、開いたりしてみる。  じっとりと汗をかいている。  焦っていた。  しっかり見れば晴翔とは違うとわかるのに――  スマホを取り出して時間を確認すると、まだ三十分あった。  諦めるにはまだ早い。  館内をぐるりと一周する。  似たような人を見かける度に胸が躍った。  けれど、結局彼は見つけられなかった。  残り時間八分。   今すぐ見つけないと間に合わない。  こんなとき連絡先を知っていたら確認できたのに。  新幹線で美登里にも確認はしたけれど、彼女は晴翔の電話番号は知らなかった。  マスターに聞いておけばよかったと思っても、今となっては手遅れだ。  連絡をとる手段がない。  悔しさを砕くように強く拳を握りしめる。  ここまで来たのだ。  追って来たのだ。  たった一言を伝えるためだけに。  だから、まだ諦めない!  出発の時間は迫っている。  でも、まだだ。  まだ可能性はある。
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