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スーツの人に駆け寄り、腕を取る。
「なにか?」
怪訝そうな顔を向けられ、急いで手を離した。
晴翔ではなかった。
小さく左右に首を振り「すみません」と謝ると、憮然とした顔を背けて、そのまま行ってしまった。
放した手を握ったり、開いたりしてみる。
じっとりと汗をかいている。
焦っていた。
しっかり見れば晴翔とは違うとわかるのに――
スマホを取り出して時間を確認すると、まだ三十分あった。
諦めるにはまだ早い。
館内をぐるりと一周する。
似たような人を見かける度に胸が躍った。
けれど、結局彼は見つけられなかった。
残り時間八分。
今すぐ見つけないと間に合わない。
こんなとき連絡先を知っていたら確認できたのに。
新幹線で美登里にも確認はしたけれど、彼女は晴翔の電話番号は知らなかった。
マスターに聞いておけばよかったと思っても、今となっては手遅れだ。
連絡をとる手段がない。
悔しさを砕くように強く拳を握りしめる。
ここまで来たのだ。
追って来たのだ。
たった一言を伝えるためだけに。
だから、まだ諦めない!
出発の時間は迫っている。
でも、まだだ。
まだ可能性はある。
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