chord 33 あきらめない

4/5
前へ
/218ページ
次へ
 まっすぐに向かったのはチェックインカウンターだ。  エールフランス空港の『J』のカウンターの前までやってくると、私は晴翔の名を口にした。 「搭乗手続きを済ませたかを教えていただきたいんです!」 「申し訳ありません。個人情報になってしまうので、確認番号を知らない場合はお教えできないことになっております」 「そう……ですか……」  確かに本人でもなんでもない人間に、易々と個人情報を漏らすようなことはできないだろう。  仕方なくカウンターを離れ、再びスマホを確認する。  ディスプレイに表示された時刻は十二時五十六分。  この時点で搭乗手続きを済ませていなければ飛行機には乗れない。  エールフランス航空のカウンター前に並ぶ人も、並ぼうとしている人もいない。  飛行機に乗っても乗らなくても、今いる場所に彼は現れないだろうことは想像できた。  大きく深呼吸し、目を閉じる。  会えなかった。  ここまで追って来たけれど、やっぱり会えなかった。  でも、やっぱり諦めきれない。  覚悟を決めて、私はゆっくりと瞼を押し上げた。  パチンッと両手で頬を弾くと、うんと大きく頷き歩き出す。  ゆっくりと滑走路が見える窓へ近づくと、外を眺めた。  いくつも飛行機が停まっている。  エールフランス航空社のロゴマークの入ったボーイング機も、だ。  ――追いかければいい。  目の前に青い空が広がる。  どこまでも高く伸びやかな空はどんなに手が届かなくても、途中で途切れたりはしない。  彼がどこにいようとも、空は繋がっている。  それなら追えばいい。  追いかけていけばいい。  彼を失うくらいなら、嫌と言われるまで追い続けたほうがずっとつらくないから。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

348人が本棚に入れています
本棚に追加