chord 33 あきらめない

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 ひとまず浜松に戻って、彼を追う準備をしようと思った。  今日、明日、すぐに追いかけて行けるわけじゃない。  一カ月、二カ月先になるだろう。  突然現れたら困惑するだろうし、迷惑がられるかもしれない。   それも全部覚悟して、私はパリへ行こうと思う。  彼の口から『好きじゃない』と聞くまでは絶対に諦めない。  ううん。  たとえ『嫌いになった』と言われても、今度は彼を絶対に振り向かせてみせる。  だって、晴翔が好きな気持ちはどこに行ってしまってもは変えられないし、変わらない。  変える必要もないことに、私はやっと気づいた。  初めて会ったときはとても好きになんかなれないと思った。  変な男だとも思ったし、胡散臭いこの上なかった。  でも、今は違う。  出会うべくして出会ったのだと、そう思う。  彼の奏でるピアノに心を奪われたから。  一緒に弾けば、初めてとは思えないほど音が重なったから。  彼の世界の一部になっていたから。  もう一度、彼と一緒にピアノを弾きたいから。  音を作りたいから。  ――今度は私があなたに会いに行くから。    歩きだす足は思ったよりも軽かった。  落胆するはずの気持ちは前へと向き、高い空へと腕を伸ばす。     青く澄み渡り、地球の向こう側までのびやかに続く空に誓うと、私は踵を返した。  振り返らないで。  前だけを見て。
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