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chord 34 心、重ねて
羽田空港まで追いかけたけれど、晴翔に会うどころか、姿を見つけることすらできなかったことに、私は後悔していなかった。
むしろ、これでよかったのだと、午後十四時三分の東京駅発のひかりに乗りながら思う。
彼を追いかけると決心できたから、今はとても清々しいし、晴れ晴れとした気持ちでいっぱいになっている。
自分の心に嘘をつかなくて済む。
思いのままに、感じたままにすればいいだけだから。
安心感のせいなのか、新幹線の心地のよい揺れのせいなのか、途中でウトウトとしてしまう。
気づけば浜松駅到着まで二十分もなかった。
一時間あまりまどろんでしまったことに驚いて、居ずまいを正す。
ここのところ、睡眠不足が続いていたから余計に眠りが深かったのだろう。
すでに静岡駅は通り過ぎ、掛川駅に差しかかろうとしている。
そこからは十分程度で浜松駅到着だ。
しばらく窓の外を眺めていると、浜松駅に到着する旨の線内アナウンスが流れた。
座席をゆっくりと立ち上がり、出口に立った。
見慣れた駅のホームが窓の外に見え始めた。
バッグの中からスマホを取出し時刻を見る。
午後十五時三十一分。
ちょっとした小旅行だったなと、クスッと笑みがこぼれる。
また東京へ行かなければならない。
そのときは大きなスーツケースと一緒に、だ。
新幹線が停まる。
次の名古屋駅に向かうまで五分ほど停車するらしいアナウンスがホームに響く。
改札口に足を向けるとすぐにスマホが震えた。
タイミングよく鳴ったスマホの画面には、電話番号だけが表示されている。
――これは……!?
画面に指を這わせ、スライドする。
通話できる状態になったスマホを耳に押しつけると、電話を掛けてきた相手の声が聞こえてきた。
『浜松駅のホームには着いたかな?』
「晴翔!?」
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