chord 34 心、重ねて

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 まさかとは思った。  見覚えのある番号だったから。  でも、聞こえてくる声は確かに晴翔で、一気に私の胸が昂った。  スマホを握る手に自然と力が入る。  周りをキョロキョロを見回すけれど、晴翔らしい姿はない。  改札口へ続く階段に向かって歩きながら、私は前方を見た。  けれど、どこにも彼の姿はない。  反対側のホームにも目を配るがいない。  いや、そもそも彼がいると考える私がおかしいのか。  彼はパリ行の飛行機に乗っているはずなのだ。  しかし、実際に話しているのは間違いなく彼自身。  混乱する頭で必死に考えるが、どうやってもわからない。 「パリに行ったんじゃないの!?」  口元にスマホを押し付けて、囁くように尋ねた。  だけど返事は貰えなかった。  逆に『そのまま改札口へ向かって』とはぐらかされる。 「晴翔!?」 『コンコースの大展示場にね。shigeru-kawai のグランドピアノがあるね』  エスカレーターに乗って、私はそのまま立ちどまらずに歩き、降りきると改札口へ向かう。  キヨスクとスターバックスコーヒーの前にある大展示場にグランドピアノが2台とアップライト型の電子ピアノが一台置いてある。  shigeru-kasaiとクリスタルピアノ。  私の家にもあるハイブリットNOVUSだ。 『今日はオフホワイトの膝丈スカートに水色のカーディガンなんだね』  着ているものを言い当てられる。  やはり私が見える場所にいるのは間違いなさそうだ。  周りをくまなく探す。  しかし一向に彼の姿を見つけられない。  耳を澄ませ、スマホから伝わってくる音を探る。  それでも手掛かりになるような音を拾えなかった。  彼は続ける。 『shigeru-kawaiで一曲弾いてもらえないかな。そうだな。花のワルツはどう?』 「晴翔!? ねえ、今どこにいるの?」 『感じたいんだ、瀬奈さんの音を。お願い、聞いてもらえないかな? スマホはピアノの上に置いてもらっていい?』
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