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まさかとは思った。
見覚えのある番号だったから。
でも、聞こえてくる声は確かに晴翔で、一気に私の胸が昂った。
スマホを握る手に自然と力が入る。
周りをキョロキョロを見回すけれど、晴翔らしい姿はない。
改札口へ続く階段に向かって歩きながら、私は前方を見た。
けれど、どこにも彼の姿はない。
反対側のホームにも目を配るがいない。
いや、そもそも彼がいると考える私がおかしいのか。
彼はパリ行の飛行機に乗っているはずなのだ。
しかし、実際に話しているのは間違いなく彼自身。
混乱する頭で必死に考えるが、どうやってもわからない。
「パリに行ったんじゃないの!?」
口元にスマホを押し付けて、囁くように尋ねた。
だけど返事は貰えなかった。
逆に『そのまま改札口へ向かって』とはぐらかされる。
「晴翔!?」
『コンコースの大展示場にね。shigeru-kawai のグランドピアノがあるね』
エスカレーターに乗って、私はそのまま立ちどまらずに歩き、降りきると改札口へ向かう。
キヨスクとスターバックスコーヒーの前にある大展示場にグランドピアノが2台とアップライト型の電子ピアノが一台置いてある。
shigeru-kasaiとクリスタルピアノ。
私の家にもあるハイブリットNOVUSだ。
『今日はオフホワイトの膝丈スカートに水色のカーディガンなんだね』
着ているものを言い当てられる。
やはり私が見える場所にいるのは間違いなさそうだ。
周りをくまなく探す。
しかし一向に彼の姿を見つけられない。
耳を澄ませ、スマホから伝わってくる音を探る。
それでも手掛かりになるような音を拾えなかった。
彼は続ける。
『shigeru-kawaiで一曲弾いてもらえないかな。そうだな。花のワルツはどう?』
「晴翔!? ねえ、今どこにいるの?」
『感じたいんだ、瀬奈さんの音を。お願い、聞いてもらえないかな? スマホはピアノの上に置いてもらっていい?』
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