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無機質なアナウンスが流れ、急いで電話を切る。
驚いて声が出てこない。
こんなことは初めてだった。
もう一度掛けなおすけれど繋がらない。
コール音ひとつせずに先ほどと同じアナウンスが流れるだけの状態に、嫌な予感が芽を出した。
「瀬奈?」
背中を向けて電話をしていた私が振り返ると、圭吾が眉をひそめていた。
「どうした?」
「繋がらなくて……もう一度、掛けてみるね」
電話を掛ける前に、念のため『連絡ください』とLINEに送信するが、すぐに既読がつかなくて、余計に焦る。
震える指でもう一度、晴翔に電話をする。
『お客様のおかけになった電話番号は――』
繰り返されるアナウンスを切るが、折り返しの電話はない。
LINEを確認しても既読にもならなければ、返事のメッセージも来ない。
違和感がざわざわと心を揺らすし、虫の知らせみたいな不穏が一気に押し寄せてくる。
ものすごく嫌な予感に、急くように胸が不快な和音を立て始めている。
なにかが崩れそうで、壊れてしまいそうで、思わず自分で自分を抱きしめる。
けれど、指の隙間から砂がこぼれ落ちるかのように不安という名の砂が、指先を縫うようにこぼれ落ちて行く。
「瀬奈さん!」
「マスター?」
血の気が引いて、顔が真っ青なマスターが私達の間に割って入った。
目を見開いて私を見るマスターの瞳が動揺しているのか、左右に細かく震えている。
少しばかり白目の部分が赤く充血しているようにも感じた。
「すぐ支度して」
「え!?」
「アイツが……晴翔が事故にあった」
「う……そ……!」
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