chord 35 悲しい恋に手を振って

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 無機質なアナウンスが流れ、急いで電話を切る。  驚いて声が出てこない。  こんなことは初めてだった。  もう一度掛けなおすけれど繋がらない。  コール音ひとつせずに先ほどと同じアナウンスが流れるだけの状態に、嫌な予感が芽を出した。 「瀬奈?」  背中を向けて電話をしていた私が振り返ると、圭吾が眉をひそめていた。 「どうした?」 「繋がらなくて……もう一度、掛けてみるね」  電話を掛ける前に、念のため『連絡ください』とLINEに送信するが、すぐに既読がつかなくて、余計に焦る。  震える指でもう一度、晴翔に電話をする。 『お客様のおかけになった電話番号は――』  繰り返されるアナウンスを切るが、折り返しの電話はない。  LINEを確認しても既読にもならなければ、返事のメッセージも来ない。  違和感がざわざわと心を揺らすし、虫の知らせみたいな不穏が一気に押し寄せてくる。  ものすごく嫌な予感に、急くように胸が不快な和音を立て始めている。  なにかが崩れそうで、壊れてしまいそうで、思わず自分で自分を抱きしめる。  けれど、指の隙間から砂がこぼれ落ちるかのように不安という名の砂が、指先を縫うようにこぼれ落ちて行く。 「瀬奈さん!」 「マスター?」  血の気が引いて、顔が真っ青なマスターが私達の間に割って入った。  目を見開いて私を見るマスターの瞳が動揺しているのか、左右に細かく震えている。  少しばかり白目の部分が赤く充血しているようにも感じた。 「すぐ支度して」 「え!?」 「アイツが……晴翔が事故にあった」 「う……そ……!」
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