chord 35 悲しい恋に手を振って

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 足元から寒気がゾクゾクと上ってくる、身震いする。  足元から伸びた影が反転して、私を飲み込もうとしている。  そんな錯覚さえ覚える。 「病院から連絡があった。今すぐ行くんだ」 「うそよ……そんな……」 『病院』という響きに、瞬間冷凍されたように急激に私の血も、心臓も、なにもかもが固まった。 「瀬奈、落ちつけ」  隣で一緒に聞いていた圭吾が私を諭した。  震える私の手をギュッと握りしめ、私の代わりに彼に尋ねる。 「どこの病院ですか?」 「聖隷浜松。今、救急外来で意識がないそうだ」 「わかりました。俺が連れて行きます。愛美、いいよな?」 「うん、しっかりね」  圭吾は大きく頷くと、私の手を引っ張った。  でも足が動かない。  指先が震える。  わなわなと唇まで震え、ガチガチと歯が鳴った。  声にならない声が喉の奥から湧きあがる私の手を、圭吾はギュッと力を込めて握りしめた。 「悪いほうに考えるな。考えたら、それが現実になる。おまえは絶対に『大丈夫』だと思うんだ。絶対にアイツを『離す』んじゃない!」  ハッとし、圭吾を見る。  彼の目は微塵も揺らいでいなかった。  だからこそ、私は「わかった」と頷けたんだと思う。  だって彼の言うとおりだから。  信じなくちゃいけないのだ、私は。  絶対に大丈夫だって、誰よりも信じなくちゃいけないのだ。  ――晴翔!  圭吾の車に乗って病院に向かう私は、股の上で祈るように両手を組みながら、目を閉じた。  閉ざされた視界に、いくつもの彼の笑顔が浮かんだ。  子供は三人欲しいと言っていた。  上から男、男、女。  男の子は私に似て、女の子は晴翔に似ていて、きっとべた惚れになるんだろうと。  それから年を取ったときの話もした。  白髪が生えても手を繋いで公園を歩いたり、ベンチに座ってのんびりできたらいいなと言って、繋いだ手を力強く握られた。  それに、こうも言っていた。  私を置いて死なないと。  一人にしないと。  私を看取って一分後に死ぬから、きっと寂しくないと。  愛していると、強く私のことを抱きしめながら――!
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