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足元から寒気がゾクゾクと上ってくる、身震いする。
足元から伸びた影が反転して、私を飲み込もうとしている。
そんな錯覚さえ覚える。
「病院から連絡があった。今すぐ行くんだ」
「うそよ……そんな……」
『病院』という響きに、瞬間冷凍されたように急激に私の血も、心臓も、なにもかもが固まった。
「瀬奈、落ちつけ」
隣で一緒に聞いていた圭吾が私を諭した。
震える私の手をギュッと握りしめ、私の代わりに彼に尋ねる。
「どこの病院ですか?」
「聖隷浜松。今、救急外来で意識がないそうだ」
「わかりました。俺が連れて行きます。愛美、いいよな?」
「うん、しっかりね」
圭吾は大きく頷くと、私の手を引っ張った。
でも足が動かない。
指先が震える。
わなわなと唇まで震え、ガチガチと歯が鳴った。
声にならない声が喉の奥から湧きあがる私の手を、圭吾はギュッと力を込めて握りしめた。
「悪いほうに考えるな。考えたら、それが現実になる。おまえは絶対に『大丈夫』だと思うんだ。絶対にアイツを『離す』んじゃない!」
ハッとし、圭吾を見る。
彼の目は微塵も揺らいでいなかった。
だからこそ、私は「わかった」と頷けたんだと思う。
だって彼の言うとおりだから。
信じなくちゃいけないのだ、私は。
絶対に大丈夫だって、誰よりも信じなくちゃいけないのだ。
――晴翔!
圭吾の車に乗って病院に向かう私は、股の上で祈るように両手を組みながら、目を閉じた。
閉ざされた視界に、いくつもの彼の笑顔が浮かんだ。
子供は三人欲しいと言っていた。
上から男、男、女。
男の子は私に似て、女の子は晴翔に似ていて、きっとべた惚れになるんだろうと。
それから年を取ったときの話もした。
白髪が生えても手を繋いで公園を歩いたり、ベンチに座ってのんびりできたらいいなと言って、繋いだ手を力強く握られた。
それに、こうも言っていた。
私を置いて死なないと。
一人にしないと。
私を看取って一分後に死ぬから、きっと寂しくないと。
愛していると、強く私のことを抱きしめながら――!
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