chord 35 悲しい恋に手を振って

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 晴翔。  約束したよね?   いろんなこと、将来のこと、たくさん、たくさん。  指切りしたよね?  逝っちゃだめよ、一人で。  約束守らないなんて、絶対に許さない。  ――晴翔!  圭吾の運転する車が病院の駐車場に停まる。  握りしめた手が嫌な汗をかいているのに、圭吾は嫌がりもせずにずっと手を重ねていてくれた。  こんなときに独りではなくてよかったと心から思える。  もしも独りだったらきっと取り乱していたし、ダメかもしれないと考えてばかりいて、大丈夫なんて思えなかった。  だから一緒に圭吾が来てくれたことを、今はすごく感謝している。 「行こう」  彼に促されるように病院内へと入ると、愛美の入院で慣れているらしい圭吾の先導でまっすぐ救急外来へ向かった。  救急外来の待合室に近づけば近づくだけ不安が大きくなっていく足が、急いているはずなのに重くて、思ったように早くならない。  黒い雲は広がっていくばかりで一向に晴れてくれない。  それでも信じなくちゃダメだと心を叱咤し、肌に指輪が食い込むほど強く左手を固く握りしめる。  目の前に救急外来の表示が見えるとすぐに、待合室にいた年配のベテランらしい看護師に圭吾が声を掛けた。 「救急搬送された宮下晴翔の身内のものですが……意識が戻らないって聞いて……」 「ああ。さっきの彼ね。大丈夫よ。今ね、意識が戻ったから」 「えっ……!?」 「あなた方が来るのがわかったみたいにね。本当に今しがた、目を開けたんですよ」  不安の影が一気に息を潜め、心の中に太陽が昇って、幾筋もの光が心の中を照らし始める。  先ほどとは違う小さな震えが全身に走り、目頭が熱くなった。 「彼、あなたを待ってますよ」  看護師の言葉を聞いてもなお、私は動けないでいた。 「瀬奈」  圭吾はニッコリと柔らかな笑顔で「行ってこい」と私を促した。 「うん!」
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