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看護師がどうぞと救急外来の自動ドアを開けて待っていてくれる。
ゆっくりと扉を潜り、一歩入ったところで足をとめて振り返った。
「圭吾……あのね……」
「わかってる。さあ、早く!」
「うん、ありがとう!」
忙しなく白衣の人たちが行き交う部屋の左奥に通される。
「まだ、意識を回復されたばかりだから……」
先ほどの看護師が耳打ちする。
晴翔は上半身起き上った状態の彼の頬や、額や腕には血の滲んだガーゼがくっついていた。
私が近づくと、彼は「軽傷だったんだよ」と笑った。
「外傷はほとんどなかったのにね、意識が戻らなかったんだって」
まるで他人事のように話す彼を見て、無事だった、生きているという安心感に堪えていた涙が一気に噴き出した。
「バカ……」
晴翔が笑うのをやめ、困ったように眉を下げる。
「晴翔のバカ!」
泣きじゃくる私の肩を、彼はそっと抱き寄せた。心臓の音が聞こえる。夢じゃない。
現実。
「泣かせないって約束したのにね」
彼の声が、囁きが、耳を伝って心の奥底に滲んで吸い込まれる。
「泣かせてごめん。でも、これを最後にするから、もう泣かないで――」
涙がとまらなくて、ぐしゃぐしゃに崩れた顔を上げたのは、やっぱり晴翔の顔をよく見たかったからだった。
「どうして事故なんか……」
尋ねる私に、彼は布団の中から小さな宝石箱を取り出して見せた。
「これ……が原因かな?」
苦笑しながら、晴翔は私の手にそれを渡した。
「初めてのコンサートが終わったらさ、渡したかったんだ」
『開けてみて』と促され、宝石箱を開ける。
開かれた中には1カラットほどのダイヤともう一つ、小さなピンクダイヤがはめ込まれた指輪が輝いていた。
「これ……」
忘れたことなど一度としてなかった。
1年前に約束した、もう一つの指輪だった。
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