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****二か月後*****
「じゃあ、行こうか?」
突然の事故で中止になってしまったコンサートのやり直しのために、私達はトロイメライにいる。
今度は二人揃って……
黒のスーツに身を包んだ晴翔が、私に腕を差し出した。
彼の腕を取って並んでピアノの前に移動すると、店内は見知った顔で溢れており、皆が私達に注目していた。
ピアノの前で揃って一礼をし、椅子に腰かける。
並ぶ八十八の鍵盤を見つめ、そっと指を置く。
「準備はいい?」
笑顔を添えて、こくりと頷く。
「二人のショーを楽しもう!」
同時に息を吸う。始まりの合図。
最初の曲は決まってる。
チャイコフスキーのくるみ割り人形第二幕十三曲目。
――花のワルツ!
ポロロンと情熱を乗せた美しいピアノの調べが響き渡る。
お互いに顔を見合って、小さく笑う。
この人に会えて、好きになって、一緒にいられて嬉しいという思いのこもった指がワルツを踊るように走り、二人の音が重なり、ひとつになって溶けていく。
新たに作る私達の音とともに未来へと羽ばたいて消えいく悲しい恋の思い出に、私は心の中で『バイバイ』と大きく手を振った。
(END)
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