ある終末で愛を謳って

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 今日、私は夫を殺した。  巨大隕石によって人類が滅亡するまで、あと二週間。  よもやその瞬間を待たずしてこの世を去ることになるとは、夫も露ほどにも思っていなかっただろう。  かく言う私もこの鬼のような男の隣で大人しく生涯を終えるのだと、ずっと諦観していた。  けれどあの瞬間、私を突き動かしたのは冷たく鋭い氷柱で身体の芯を貫くような、奥底からこみ上げる衝動だった。  あれは疑いようもなく揺らぎのない、ただひたすらにひたむきな愛だ。  神の前で病める時も健やかなる時も愛し続けると誓い合ったはずの夫の雄二(ゆうじ)ではなく、翳りのある瞳に青い炎のような寂寞を灯した雪人(ゆきと)への、女としての痛々しいほどの渇望だった。
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