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幼い頃、仕事が忙しくてなかなか帰宅しない父親の部屋のクローゼットにひとり、こっそり潜り込んだことがある。もしかしたら夢だったのだろうか、団吉宏は折に触れて時折あの日のことを思い出す。
クローゼットの一番奥には古ぼけたアンティークのような大きなトランクがしまわれており、開くと中は空だった。そして、トランクと一緒に、古い毛布にくるまれた細長い包みが、隠されるように置かれていた。その細長い包みを手に取ってみると、包まれている中身が薄く発光し、薄暗いクローゼットを明るく照らし出した。
思わず毛布を引っ剥がしてみると、中からはまるでゲームにしか出てこないような『剣』が出てきたのである。仕事人間な父の持ち物には似つかわしくない、本物そっくりの剣。鞘から抜くと、刃が銀色に美しく輝いている。良く出来たおもちゃだろうか、とそっと刃に指先で触れると、チクリと痛みが走って人差し指に血が滲む。
「……本物?」
きらきらと輝く剣を思わず何度も何度も見つめてから、吉宏はもう一度、光る剣に毛布を巻きなおし、トランクを閉めて元の位置に戻すと、思わずクローゼットから飛び出した。
その後の記憶は曖昧だが、あの記憶が確かなら、今でも父のクローゼットの中にはあの不思議な剣が仕舞われているはずなのである。何となく聞くのも、確かめるのも躊躇っているうちに、10年ほどが過ぎてしまったというわけだ。
吉宏の学校の進学生クラスは部活動を免除されている。学校からの帰り道、ふとあの日の出来事を思い出して、無人の家の父の部屋のクローゼットを開けた。
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