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「エメラルド、だっけ、エルメランドだっけ………サーダイン、大聖堂………」
父親にスマートフォンでショートメッセージを送ろうとして、吉宏は思わずひとりごちる。
「なんかのゲームのコスプレ、じゃあなさそうだよなあ、これ」
小さいながらも油絵のような『本格的な質感の』肖像画に描かれている少し若い父の姿。その隣には見知らぬ、柔らかい桃色の髪の毛の、杖を手にした女性が花束を手に寄り添っている。初々しく、仲睦まじいカップルにしか見えない。そして、先程クローゼットで出会った、自分より少し年上に見える少女。『アデル・ダン・シーランス』という名前の中にある『ダン』というミドルネーム。
(もしかして……)
思わずショートメッセージを打つ手を止めて考え込む。そもそも父はあの少女のことを知っているのだろうか。今日起きたことを知らせてもいいのだろうか。
だが、あの少女はもしかすると自分の姉か何かかも知れない、という考えを吉宏は捨て去ることができなかった。そうだとしたら、自分には知る権利があるのではないか。
意を決して再び吉宏は、スマートフォンを手に取り直した。
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