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*       *      *   朝5時に起き、珈琲……は、流石に体に支障をきたすため、ホットミルクを入れる。デスクの上に積み重ねられた膨大な書類と封筒に、1通1通目を通しながら1日が始まる。  魔術や魔法、幻想が許されているこの世界で一番地味な仕事であり、大変やる気を削がれる作業である。人型であるが故に押し付けられるものでもあるのだが。  黒い髪に紅の瞳を持った少年は深いため息をついた。 「ヒッポグリフとケンタウロスの縄張り争い仲裁。フェウルーア領(うち)にある店が強風で大破したことへの支援。王都凶悪強盗犯の確保依頼」  少年はそのうち二つの書類を怒り任せに机に投げつけた。 「管轄外ばかり押し付けて……!」  これが一体何通ある事やら。   「あの能無し王家ども……!」  少年は毒を吐きながら、しかし、真面目に仕事に取り掛かり始めた。  未だ齢14にして、獣人の支配者(ルーラー)という立場にある、クライヴ・レルフ。  クライヴは獣人の魔物、「人狼」という種族に生を受けた。故に、魔獣やその他の種族間の揉め事は基本手を出さない。下手をすれば、こちらの種族との関係も拗れかねないからだ。  それを知らない者はいない。少なくとも、情勢に関わる支配者と、古くから力を持つ王家は知らないわけがないほど基本のルールである。  それを送り付けてくるということは、よほどの非常事態か、単なる嫌がらせである。  クライヴは、その事実を思い出し苦虫を百匹潰したような顔をしていた。  その時、コンコン、と扉を叩く音が鳴る。 「おはよう、クライヴ。……まあ……、その書類の山……」 「おはよう。お母さん」  クライヴの母、カレンが書類の山を見て絶句する。 「それ、今日中なの?」 「ああ。これくらい大丈夫だ」 「くれぐれも無理はしないでね?この前も倒れたでしょう……?」 「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」  そう、とカレンは心配そうな表情を浮かべながら、朝食の準備へと向かうために部屋を後にした。  クライヴは一つ息をつくと、今日中に仕事を終わらせるべく大量の書類と向き合うことにした。
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