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*         *        *  藍色の背景。一閃の煌めき。揺れるカーテン。無残にも砕け散った硝子。飛散する鮮やかな紅い雫。傾ぐ巨体。靡くガーネット色の髪。鋭いブロンドの瞳。  つい先ほどまで生死の賭けをしていたというのに、鮮烈な光景が視界と心を満たす。  紅色の望月の夜だった。 *         *        * 「それで?今なら少しばかりの言い訳も聞いてやってもいいが」  声変わり途中の声。冷ややかな声音が相手の耳を刺す。不健康そうに肥えた男は、ひと回りもふた回りも小さい、少年に恐れ慄いていた。  数年前、小馬鹿にしていた少年は、既に支配者としての風格を兼ね備えていた。 「あ、う……」 「無いのか。面白く無い」  少年の瞳が男を見下ろす。感情の読めない眼が男を捕らえて離さない。  だがその瞳の圧が少し緩んだ。 「今日のところは帰らせてもらう」  少年は椅子から立ち上がると、扉を開けて去っていった。その背中を男は見送る。少年の瞳が不穏に煌めいているのも知らずに。  男は一つ息をついた。どうやら露呈したのはアレだけだったようだ。にやりと不敵な笑みをこぼす。所詮支配者といえど、まだ子供。全ては見抜けなかったようだ。  ふと窓を開けていたことに気付き、閉めようとした。だがどうしてか、四肢が急速に熱を失う感覚があった。やけに寒いと思い腕を摩る。  くらりとめまいがした。疲れているのか、と窓を閉めるのをやめ、ひとまず椅子に座る。  ひどく眠気が襲ってきた。ああ、このまま寝てしまおう。明日、あの子供を蔑めるための会議について考えながら。  そうして男は、眠った。それが永い眠りであるとも気付かずに。  男が眠っている部屋、開きっぱなしになっている窓から、1匹の蝙蝠が飛び立っていった。
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