1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
ENCOUNT
* * *
藍色の背景。一閃の煌めき。揺れるカーテン。無残にも砕け散った硝子。飛散する鮮やかな紅い雫。傾ぐ巨体。靡くガーネット色の髪。鋭いブロンドの瞳。
つい先ほどまで生死の賭けをしていたというのに、鮮烈な光景が視界と心を満たす。
紅色の望月の夜だった。
* * *
「それで?今なら少しばかりの言い訳も聞いてやってもいいが」
声変わり途中の声。冷ややかな声音が相手の耳を刺す。不健康そうに肥えた男は、ひと回りもふた回りも小さい、少年に恐れ慄いていた。
数年前、小馬鹿にしていた少年は、既に支配者としての風格を兼ね備えていた。
「あ、う……」
「無いのか。面白く無い」
少年の瞳が男を見下ろす。感情の読めない眼が男を捕らえて離さない。
だがその瞳の圧が少し緩んだ。
「今日のところは帰らせてもらう」
少年は椅子から立ち上がると、扉を開けて去っていった。その背中を男は見送る。少年の瞳が不穏に煌めいているのも知らずに。
男は一つ息をついた。どうやら露呈したのはアレだけだったようだ。にやりと不敵な笑みをこぼす。所詮支配者といえど、まだ子供。全ては見抜けなかったようだ。
ふと窓を開けていたことに気付き、閉めようとした。だがどうしてか、四肢が急速に熱を失う感覚があった。やけに寒いと思い腕を摩る。
くらりとめまいがした。疲れているのか、と窓を閉めるのをやめ、ひとまず椅子に座る。
ひどく眠気が襲ってきた。ああ、このまま寝てしまおう。明日、あの子供を蔑めるための会議について考えながら。
そうして男は、眠った。それが永い眠りであるとも気付かずに。
男が眠っている部屋、開きっぱなしになっている窓から、1匹の蝙蝠が飛び立っていった。
最初のコメントを投稿しよう!