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十二月始め。
高校三年の冬だというのに未だに進路希望調査が白紙のままである。
普通はね。
遅くとも秋頃には決まっているはずなんだけどね。
どうしたものか。私はずっと白紙のまま。
先生からも「この時期に何も決まっていないのはやばいからとにかく書いて」と言われるが、何も書けないでいる。
いや、書こうと思えば書けるけど本当にこれでいいのかなと悩んでいるから。
だからどうしてもなかなか白紙から脱出できない。
そもそも自分の将来に関わる事だから下手なことなんて書けない。
かれこれファミレスにて進路希望調査とにらめっこをしてから三時間経った。
あぁ、もう!悩むならこれでいいや!と投げやりの気持ちで
進路希望調査の第一志望には”就職”と書いた。
これでいい、これでいいんだ。と自分に言い聞かせ、ドリンクバーを二十杯飲み終わったタイミングでお会計を済ませる。
外に出ると、そこには目が黄色と青のオッドアイ、毛の色が半分黒と白の珍しい仔犬がぽつんと私の方を見ていた。
同時に進路希望調査の紙もその仔犬の前に落としてしまった。
仔犬はその紙に気付いた途端、「グルル…」と唸り始めた。
もしかして体調が悪いのかなと思い、その仔犬を触ろうとしてもずっと唸るまま。
進路希望調査も仔犬の前にあるからそのままほっとくわけにもいかない。
どうしようと悩んでいると、いきなり強風が吹いた。
私のスクールバックのチャックが開いたままだったので、中に入っていたプリント類が仔犬の周りに飛び散った。
「あわわ、やっちまった……」
拾う動作でまた仔犬に警戒されちゃうと思った瞬間。
仔犬はある方向を見て今度は「ワン!ワン!」と私に何かを訴えているような感じで吠える。
仔犬が見ている方向を見るとそこには、以前私が取り寄せていた専門学校の資料があったのだ。
どうして、これに反応するんだろうと不思議に思っていたが、ハッと気付く。
もしかして、もしかしてだけど。
私が本当は専門学校へ行きたいのを見透かしているとか……?
いやいやそんなはずはない。だって相手は仔犬だよ?
しかもさっき出逢ったばかりだし、そんな馬鹿な。
そう思いながら、仔犬に「本当は専門学校へ行きたくないのかってもしかして言ってる?」と半信半疑で語り掛けると「ワン!!!」仔犬は潔く返事をした。
本当にそれが返事なのかはどうか分からないけど、私にはそう聞こえた。
仔犬に見透かされていると思った私は、日本語が分かるはずもないのに仔犬に自分の気持ちを吐露した。
「君に正直言うね。聞き流していいから聞いて。……私ね、将来アイドルや有名なアーティストの衣装を作りたいと思ってて、だから服飾の専門学校へ行きたいの」
相槌の代わりなのか分からないが、仔犬は私の話を聞きながらクゥンと可愛い声を漏らす。
「でも実家が貧乏だし、お母さんも女手一つで私を育ててくれたからどうしても迷惑かけたくなくて。今まで好き勝手させてもらったから我儘は言えない。だからそれで就職にすればいいのかなって思ってた」
仔犬に向けて何話しているんだろうと話ながら心の底では疑問に思ってた。
周囲の人も私のことを見て何してんのアイツという目で見てくる。
本当は恥ずかしくてこの場から逃げたい。でも逃げられない。
この仔犬の前では。どうしても私の本当の気持ちを伝えないと脳が、体がそう訴えている。
だから、心の底に隠した想いを人間でもない、仔犬の前で感情をぶつける。
「でもやっぱり私、専門学校へ行きたい!将来の夢、諦めたくない!」
一方通行に私の気持ちを伝え終わった後、仔犬は心なしか笑った気がした。
ようやく自分の気持ちがはっきりしたので、お礼に家庭科の時間に作ったクッキーを仔犬にあげようとしたのだが、クッキーを探している間に仔犬はどこかへ行ってしまった。
「あの子、どこ行っちゃったのかな……」
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