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9 第一部 最終話
朝目が覚めると、見慣れないベッドの上、
見慣れない部屋、いつもと違う空気。
隣には、エミリオがすやすやと気持ちよさそうに寝息をたてている。
私、昨日……。
自分の行いを振り返って赤面する。
「リナ」
「エミリオ、おはよう」
私達はお互いに顔を合わせると、照れてしまった。
戸惑う私にエミリオは「ちょっと待って」と声をかけて、素早く起き上がり、奥の部屋に向かった。しばらくして戻ってきた彼の手には袋が握られている。
「これを」
エミリオは私の手に袋を持たせる。
乗せられた袋は、ずしりとした重みがあった。
「これは?」
「リナが寝ている時に違約金のことについて調べたんだ。多分、足りるはず。
ほとんど、というか、ほぼ全財産かも。はは。
結婚資金として貯めてた分もあるから。
しばらくは贅沢な生活もできないと思うけど、こんな俺でもリナは付いてきてくれるかな?」
「エミリオ! こんな大金受け取れない!」
私はエミリオに袋を返そうとする。
「俺の為に、お願い」
もう一度、エミリオは私の手に袋を握らせる。
これは、エミリオの今までの努力の結晶。
苦労して頑張って貯めたことが痛いほどに分かる。
それを私なんかのために?
「エミリオ…少しづつ頑張って返せるように、私も働くから!
私、一刻も早くあそこを出たい……だから、このお金を貸してください。必ず、返すと約束する。だから、私、今日、辞めてくる」
エミリオに深々と頭を下げて懇願した。
「ちょっと、リナ、顔を上げて。大丈夫だから」
頬にそっと触れられたエミリオの手の感触が嬉しい。私に勇気を与えてくれる。
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