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リップクリーム-3
それから、あたしは教室の後ろから和泉の様子を眺めるようになった。気づいていなかったが、左利き。お弁当持参で、足りない分を購買のパンなどで補う。碓氷に呼び出されてリップクリームを握り締めて戻ってきたときは、自分も塗ると決めた。
「璃々子、なんか和泉のことよく見てるよね?」
ある日箸でミートボールを摘まんでいたときに友人にそう言われ、思わずどきっとした。昼休み、教室にいろんなにおいが漂う中、和泉はトイレにでも行ったのか席を外していた。それを確認してから「だってさあ」と髪を掻き上げた。
「生チュー、びっくりしすぎて忘れらんなくて」
すると一人が「璃々子はお子ちゃまだね」とにっと笑った。
「彼氏できちゃったんだよね。一週間前、キスした。しかも海辺! 車でロマンチックなところ連れてってくれて、最高だった!」
一人の台詞に皆が「マジ!?」と色めき立つ。話題はすぐに彼女とその彼氏のなれそめに話が移り、ああ、あたしはこんな会話をすることはないんだなとどこか冷めた思いで皆を見つめる。一方、それを和泉相手で想像していることに自ら赤面した。
その和泉と碓氷の関係は相変わらずよく分からなかった。碓氷が他校の彼女を大切にしていることは聞き出した。ならば碓氷の和泉に対する執着はなんなのか。和泉にそれを尋ねても、いつものらりくらりとかわされた。
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