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罰掃除2-1
「だから、なんでウチだけ!」
つい数週間前に吐いた台詞を床にたたきつけ、放課後のあたしはまたバケツとほうきを手に化学実験室に向かった。二日連続で電車の遅延で遅れ、「電車は遅れることがあるからそれを見越して登校すること」なんていう昭和な考えがある校風と知った。いい加減にしてよと言いたくなったが、担任の汚れた眼鏡を見たらその気力もなくなり、めでたく再び罰掃除を仰せつかったのだ。五月考査では英語でクラス一位をとったのに、金髪フルメイクギャルに対しては目線が厳しいらしい。
でも、今日はピーチティーだから。あたしは昨日飲み物を買った自販機の列を思い出して内心ふふと笑った。ピーチティーは夏の期間限定らしく、先週登場した新入りだ。梅雨の正念場である六月も悪くない。その前にそこにあった飲み物を買えなかったことが残念だったものの、桃味はたいていこちらを裏切らない。
イズミンはどう思うかな。感想を聞く限り甘党ではなさそうだから、ちょっと甘過ぎるって思うかも。そう言えば、紅茶派かコーヒー派かも聞いてない。カフェオレを飲む機会があったら聞いてみよう。
そんなことを考えながら実験室の扉をガラガラと開けると、「なんだ、また姫宮かよ」という声がした。ぱっと顔をあげると、背を向けて机に座った碓氷がこちらを振り返ってにやっとしている。机に見覚えのある黒縁の眼鏡が置きっぱなしだ。一人かと思ったが、碓氷の足の間に黒髪のくせっ毛が見えて、そこに和泉がいることに気づいた。
「……えっ?」
一拍遅れて、状況を理解した。彼氏がいないあたしでも、興味本位でネットにある大人の刺激的なマンガは読んだことがある。だから、今、和泉と碓氷がなにをやっていたのか分かった。ただ、それを受け入れるのに時間がかかっただけだ。
ガラン。大きな音がして、廊下にバケツが転がった。その音に我に返り、思わず実験室から遠ざかるようにじりっと後ろにさがる。碓氷がくっと笑った。
「なんだよ、この前は動揺なんてしてなかったくせに」
碓氷が和泉の髪を掴んで顔をあげさせて、あたしは眼鏡を外した苦しそうな顔に目が釘付けになった。
別棟は相変わらず人気がなく、同じ階から人の気配はない。おそらくそれを見越して碓氷はここを選んだのだろうが、あたしはどっと汗が噴き出るのを感じた。半袖になったシャツが急に寒々として、鳥肌が立つ。
誰か、先生を呼ばなきゃ。
そう思うのに足が動かない。上履きが廊下に貼りついてしまったかのように、最初の一歩を踏み出せない。
違う、駄目。先生を呼んだら和泉が傷つく。こんな古い考えの学校で、和泉が退学処分になんてなったらあたしは。
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