2人が本棚に入れています
本棚に追加
拒絶-2
「でも、イズミンは嫌なんでしょ?」
だって、泣きそうだったじゃん。そう続けようとしたが、和泉はあたしの言葉を無視して校舎を指さした。
「姫宮さん、授業を受けておいたほうがよかったんじゃない?」
「それ、ウチが頭悪いと思ってる? ウチ、勉強できるほうだけど」
案の定、和泉は「そうなの?」と意外そうに聞き返してきた。思わず人差し指でトントンとその胸をつつく。
「イズミン、それってギャル差別。髪がプリンでもちゃんと勉強する子はいる!」
「そっか」
和泉が自然な笑みを浮かべた。
「俺たち、なんか似てるね。見た目と中身が違う」
「委員長が放課後学校でエッチしようとしてて、ギャルのウチが勉強できるってこと?」
「まあ、そんな感じ」
和泉の落ちてきた眼鏡を直す仕草に、なんだか心がそわそわする。体を触ってしまった指先を反対の手で包み込んでちらっと見上げた。すると、泣きぼくろの目が「なに?」と見下ろしてくる。あたしはむずむずとする口をとがらせた。
「ウチ、意外と面倒見がいいって言われるけど。ウチじゃイズミンの力になれない?」
すると和泉は「そうだね」と否定しなかった。
「柊馬君には柊馬君の考えがある。それを姫宮さんは変えられないでしょ」
「イズミンの考えを変えるのは駄目なの」
「俺が意見を変えても周りは変わらないよ」
和泉の上履きがそこにあった小さな石ころを蹴った。
「さっきのことだって半月もすれば殆どの人は忘れる。そうやって時間が過ぎ去るのを待つのが一番楽だ。前にも言ったよね。俺は優等生じゃない。ただちょっと諦めが早いだけだよ」
にべもない答えに再び絶句する。自分が助けたいと思っても、手を差し出してくれなければなにもできない。これまで積極的に話しかけることで友人に囲まれてきたあたしは、それを求めない人に出会ったことがなかった。
「姫宮さんの気持ちはありがたく受け取っておくよ」
じゃあね。リップクリームをあたしに押しつけた和泉は背を翻し、あたしをそこに残して校舎へと戻っていく。足が動かなくて、ゴミ箱の中を見る。梨ジュースの紙パックは握りつぶされていて、くの字にへこんでいた。
――ただ諦めが早いだけだよ。
あたしはこぶしを握りしめ、曇り空を睨んだ。
最初のコメントを投稿しよう!